第24話 閑話 酒と調味料
アデルハイドが東にある島国に米と大豆があると聞きつけて船に飛び乗ったのは十三歳になったばかりの頃だった。
そこで見つけた醤油や味噌、豆腐に白米そして米から作る酒に焼酎など居酒屋「花結び」はこの国との出会いがなければオープンにまで漕ぎ着けれなかったとアデルハイドは思っている。
アデルハイドが東の島国でそれらを見つけた時「間違いない、過去私と同じような転生者が居たのよ」と確信したのは島国で見つけたカップラーメンもどきだった。
中々に高級品らしく普及もしていないが、一口食べた瞬間黄色い鳥が脳裏を過った。
そんな東の島国から米や大豆の栽培や加工を領地で行うための誘致など公爵である父親を説き伏せながらなんとかオープンまで辿り着いた。
よくある乙女ゲーム転生ものらしい婚約者との関係改善などは、目の前に開けた新しい夢の前にはカケラも意識がなかった。
そう、無かった。
なんなら存在すら忘れていた。
東の島国から帰国して誕生パーティーを欠席した恨み節たっぷりの手紙を受け取ってようやく思い出したほど。
とりあえず帰国時に持たされた木彫りの魚を咥えた熊をお土産に贈っておいた。
現在その木彫りの熊はフェリクスの寝室にある暖炉の上に飾られているが、アデルハイドは全く知らない。
アデルハイドが拘ったのは調味料だけではない、肝心の酒にもかなり拘りを見せた。
「辛口から甘口、それに濁りも欲しいし出来るなら領地で芋や麦の焼酎も作れたら良いんだけど」
父親をまたしても説き伏せ、酒の一大産地を築くまでになった。
途中からは公爵自身が新しい領地の産業として手を入れたのが決まり手だったが。
ずらりと並んだ酒瓶を前にアデルハイドとハノイ、アリッサに加え何故かフェリクスとディオンが堂々と加わっていた。
「客目線での意見になるぜ」ただ酒に釣られたかのようなディオンが良い笑みを浮かべ、隣でフェリクスが真剣な顔付きで「僕は勉強の為に」とやけに深刻だ。
今日は定休日のため先日運ばれて来た東方の島国から輸入した清酒と焼酎を試飲するために集まっていた。
「はぁ来てしまったものは仕方ありませんね、はいあなた方の分」
コトリと小皿に入れた塩と水の入ったグラスを置き、お猪口に最初の酒をハノイが注ぐ。
くいっと口に含んで舌で転がすと強い香りに喉奥がキュッと絞まる、続いて舌を刺激する辛味がスッと喉を滑り落ちていく。
「辛口、三というところかしら、フルーティな香りが強いから魚やサッパリした肴に会いそうね」
アデルハイドが伝えると、同じくお猪口からクイっと酒を飲んだアリッサがメモを瓶に貼り付ける。
黒い星が三つつけられたその下にフルーティと書かれている。
「次にいきましょう」
そう言って小指に塩を少し付けてペロリと舐めると水をごくりと飲み込んだ。
「あ、なんかいい感じにリセットされた気がする」
「気持ちだけね、良い塩ならそれだけでアテになるもの」
次いで注がれた酒をクイっと飲んでは相談しながら指標を書き込んでいく。
「こうやって比べると随分違いがあるんだなぁ」
ディオンが感心したように言う。
フェリクスは飲み比べながらメモを取り時々ハノイに質問を投げかけていた。
「将来を考えてアディの役に立つためにも覚えておいて損はないからね」
爽やかな笑顔のフェリクスにアデルハイドはキョトンと顔を上げてフェリクスを見た。
「少しは勉強して頼りになるところを見せないとね」
フェリクスとの将来、アデルハイドとしてはいずれヒロインさんとくっ付くのだからと気にかけたことがない。
不意に飲んだ酒はどれより辛く感じた。
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