第23話 スズキの蒸しあんかけ

 初夏から夏にかけて水揚げされる魚は結構多い、好んでこの国で食される魚は鯛やマグロ、鯵やカンパチなどがある、ほぼ前世の日本と変わらない。

 その中でもメジャーなのがスズキだ。

 ソテーやムニエルとして食卓に上る機会が多い。

 居酒屋「花結び」ではサッパリとした塩焼きやコッテリバター焼き、ソテーやムニエルもワインに合わせて好まれるためこの時期のメニューに欠かせない。

 「飽きたわ」

 ほぅと溜息混じりのアデルハイドの言葉にビクッと肩を震わせたのは今日もアデルハイドにくっ付いて居酒屋「花結び」に来ているフェリクスだ。

 「ぼ、僕に?」

 「何の話です?」

 恐る恐ると問われてアデルハイドが眉間に皺を寄せて慌てて親指でそれを隠す。

 「スズキですよ、偶には違う肴にしたいわねと」

 「スズキか、ここではよくバター焼きで出てるよね」

 「ええ、照り焼きにしても良いのでしょうが、そうですね蒸しましょう」

 開店準備を終えたアリッサが店内に戻り、アデルハイドが作り始めたものを興味深く覗き込んでいた。


 スズキの切り身は水分を取り塩を軽く振っておく。

 蒸篭に切り身を並べて輪切りにしたレモンを乗せて蒸していく。

 その間に旬のピーマンやパプリカ、玉ねぎを細千切りにする。

 フライパンに油をひいて切った野菜をサッと炒める、そこへ出汁と酒に酢、塩胡椒をして沸騰したら水溶き片栗粉でとろみをつける。

 蒸しあがったスズキはレモンと一緒に皿に盛り、餡をかけて小口切りの葱を散らせばスズキの蒸しあんかけの完成。

 

 「辛口寄りのサッパリした冷酒に合うと思うわ」

 そう言いながらフェリクスに一皿出した。

 「見た目が鮮やかだね」

 蒸して白い身のスズキの上にあるレモンの黄色を始めとしたピーマンやパプリカの彩りが確かに目を引く。

 「思い切り僕の苦手なピーマンが…」

 苦笑いをするフェリクスにアデルハイドはクスクスと笑みを浮かべる。

 「ん、これは出汁と酢の酸味が蒸したスズキのふっくらとした身と絡まって、ピーマンやパプリカに玉ねぎのシャキシャキした食感もいいね」

 苦手なピーマンを物ともせず箸を進めながら冷酒をくぴりと飲んだフェリクスがほうと溜息を吐く。

 「これは合うね、淡白な味付けだから辛くなり過ぎないこの酒はピッタリだ」

 ふふふと機嫌良く笑みを浮かべるフェリクスを見て、入って来た下級騎士が同じものをと頼んでいる。

 アリッサが忙しく動き回りだし、アデルハイドもまた調理台へ向かった。



 

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