第22話 マグロのタタキ
初夏ともなればマグロの水揚げが公爵家の持つ領地の隣にあるハイライト伯爵領で盛大に行われる。
騎士団長として普段は王都に居るハイライト伯爵もこの時期は領地に顔を出すらしい、そんなハイライト伯爵家子息であるディオンが居酒屋「花結び」まで運んできたのは立派なマグロの塊だった。
「多いわね」
最新の冷蔵技術で運び込まれたマグロは生でも問題なく食べれそうで「漬けにして丼……」とついアデルハイドは前世に食べた味覚に思いを馳せていた。
「夕方には父上も来るらしいからいい感じに頼むって言ってたぜ」
丸投げ感のある注文に苦笑いで返してアデルハイドはカウンターの内側に入った。
当たり前のようにカウンター席に座るフェリクスがディオンから漁港で水揚げされる魚についてレクチャーされているのをBGMに特注の刺身包丁を取り出した。
マグロをブロックに切り分けて先ずはお茶漬け用の漬けを作る。
ボウルに醤油、酒、生姜、砂糖を入れ混ぜ合わせて切ったマグロを漬けておく。
食べる時に出してご飯に乗せてからわさび、白胡麻、刻み海苔、小口切りにした葱を乗せ熱いダシ汁をかけて頂く。
下準備だけすれば後は提供前に仕上げるだけだ。
続いてタタキを作る、生食に馴染みがない王都の貴族もタタキであれば食べやすいとアデルハイドは考えた。
フライパンで全面を焼き色がつくまで焼いたら直ぐに氷水に入れる。
冷えたらしっかりと乾布巾で水気を取り除く。
下準備はこれだけ。
たっぷりの大根のツマと小口切りのネギを盛り付けて、添える醤油は二種類、山葵醤油と生姜醤油。
生姜醤油には胡麻油を数滴落とす。
他に定番のステーキにはガーリック醤油を合わせて、唐揚げはサッパリレモンを添えた。
カラカラと音を鳴らして扉が開く、ハイライト騎士団長がディオンに手を上げてアデルハイドにニッカリと笑いかけた。
「準備出来ていますわ」
そう言うと嬉しそうにディオンとそれを眺めていたフェリクスをテーブル席へと連れて行った。
最初に出したのはタタキだ。
「これは、綺麗だな」
切り口が綺麗な二色に分かれ、中の身がキラキラと紅玉に輝いている。
たっぷりとネギと大根を揃えて山葵醤油に漬けてパクリと口に入れる。
「周囲を焼いているから旨みが閉じ込められているな、しかも特有の生臭さが軽減され食べやすい、うん辛口の冷酒をいただこう」
アリッサへと冷酒を頼んだ騎士団長が生姜醤油に漬けてまた一口頬張る。
「先程のツンとした刺激もいいが、此方の生姜の辛味と胡麻油の香りは食欲を刺激するな」
冷酒と共にマグロの唐揚げやステーキを出す。
ボリュームのあるメニューはディオンに好評だった。
最後に漬けマグロの茶漬けを出した。
「サッパリしているのにシッカリとした食感とマグロの旨みが出汁に合うんだな、時々ツンと来る山葵がいい」
此方はフェリクスが気に入ったようだった。
「領地だと浜で焼いて食べるか大鍋で煮込むばかりだったが、こうやって食べるとなかなか旨いもんだな」
ふむふむとご機嫌の騎士団長がディオンの肩を叩いている。
「気に入って頂けたなら良かったわ」
避けて置いた自分用のタタキを口にしながらアデルハイドもにこりと微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます