第14話 漬物

 東方の島国から輸入した大豆や米から職人の誘致もあって公爵領では様々な食品が日々市井に発信されている。

 漬物といえばピクルスを始めとした酢漬けや塩漬けがメインの国であった、当然居酒屋としてはそれだけでは足りない。

 米があれば糠漬けが出来る、大豆があるなら醤油漬けや味噌漬けが出来る。

 この世界では薬草扱いの紫蘇も、漬物には欠かせない。

 そんなアデルハイドの地道な活躍で居酒屋「花結び」では様々な漬物を展開している。

 今日はじっくりと時間をかけ漬け込んだ味噌漬けを取り出す日だ。


 ワクワクと心躍らせながら「花結び」の二階に作った暗所へあがる。

 運び出しに駆り出された護衛についている騎士にひとつずつ取り出した陶器の壺を渡していく。

 「糠漬けだけは下にあるからね」

 そう言ってウキウキと階段を降りてテーブルに並べた壺を眺める。

 「糠漬けは毎日出しているから後にして、先ずはお楽しみの味噌漬けよ」

 味噌漬けの味噌床は味噌に酒と砂糖と酒粕、それに鷹の爪を混ぜたもの。

 これ自体が万能なので魚の味噌漬けや胡瓜などの一夜漬けに使ったりもしている。

 今回漬けたのは瓜だ。

 前世なら奈良漬に似たものになる。

 ひとつ取り出して味噌を洗い流し水分を取ってスライスして摘んでみる。

 味噌の香りと酒の芳醇さが喉を通る。

 柔らかな歯触りに思わず酒を飲みたくなったアデルハイドはお茶で誤魔化しながら次の壺の蓋を開ける。

 切った味噌漬けをハノイとアリッサ、今日の護衛の五人が摘んでいる。


 次は酢漬けにした蕪だ。

 一週間ほど前に漬けた蕪は、皮を剥き薄くスライスした蕪に酢と砂糖、塩に小口切りにした鷹の爪、昆布を入れた漬け汁に漬けたもの。

 皿に盛る時に上から皮をすりおろした柚子を振りかければ出来上がり。

 アデルハイドは味見に蕪を口に入れる、ふわりと立ち昇る柚子の香りに甘酢のサッパリとしたまろやかな酸味がとろりとした蕪に絡んで舌を喜ばせる。

 「うん、美味しいわ」

 秋に収穫される蕪より春に収穫される蕪は柔らかく漬物にも向いている。

 アデルハイドが皿を差し出せば我先にとハノイやアリッサ、護衛たちが箸を伸ばす。

 

 他に、塩昆布を混ぜ合わせた春キャベツや浅い味噌漬け、糠漬けは定番の茄子と胡瓜、塩漬けにした葉野菜などを並べる。

 「今夜の漬物盛り合わせは豪華になりそうね」

 「どれも違う味覚なので酒が進みそうですな」

 ハノイがカラカラと笑う、アデルハイドとしてはシメにお茶漬けを出して残りのお漬物をいただいて欲しいが、そこまでは言えない。

 ならばとメニューの端にお茶漬けの絵と合わせておススメのシメとして紹介しようとペンを持った。

 枚数書かなければいけないアリッサが「わ、私絵は苦手で」とオロオロして一同を笑顔にしていた。

 


 

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