第15話 しぐれ煮とスジ煮込
牛肉は貴重だ。
乙女ゲームの影響かはたまたアデルハイドと同じように各地に転生者なりが居たのか、アデルハイドにはわからないが食べ物なんかは前世と共通するものが多々ある。
おかげで居酒屋「花結び」を開店まで漕ぎつけれたのだが、なんなら南の方には中濃ソースもあったりして鉄板メニューを増やそうと近々鍛冶屋に顔を出す予定だ。
それはそうと、この世界では牛肉が超がつく高級品だったりする。
肉といえば殆どが豚や鶏、猪や鹿なのだが一部高位貴族や王宮でもたまにしか食卓に登らない牛肉がアデルハイドの目の前にある。
先日行われた王太子の誕生パーティーの晩餐に牛肉を使ったらしい。
アデルハイドはそこで食されなかったスジの部分を格安で購入してきた。
当然、公爵家の名前をガンガン使うつもりが王妃や王太子夫妻が興味を持ったおかげで難なく購入出来た。
骨などはアデルハイドが持つ商会が平民街に出している食堂で出汁にすると任せている料理長がウキウキと持って帰った。
そんなスジ肉を前にアデルハイドはご機嫌だ。
「兎に角肉の部分を削いでスジと分けましょう」
肉切り包丁を手に笑顔で切り分ける姿は頼もしいほど。
ひっつめた銀髪には調理しやすいように三角巾に隠し、懸命に包丁を入れる。
「スジ肉の下処理ね」
水を張った鍋にスジ肉を入れて沸騰させていくと、あっという間に灰汁だらけになる。
灰汁を捨てるようにお湯からザルに出して水洗いしたスジ肉を、綺麗な水を再度張った鍋に入れる。
輪切りにした生姜とネギの上部、青い部分とを一緒に柔らかくなるまで煮ていく。
一旦鍋から出して茹で汁はそのまま賄い用のスープにするためハノイに預けた。
灰汁を抜いて千切ったこんにゃく、厚めの輪切りにした後四頭分に切った大根、下処理し食べやすい大きさに切ったスジ肉を鍋に入れて、水を加える。
茹で汁を使うのもありだが、今回は使わないでいく。
沸騰したら火を弱め酒と砂糖に醤油を加えてコトコトと一時間ほど煮ていく。
煮あがれば皿に盛り小口切りのネギを振って出来上がりだ。
次はこ削いだ牛肉を使ったしぐれ煮に取り掛かる。
生姜は千切りに酒と醤油に砂糖を入れた鍋に千切りにした生姜を入れて沸騰させる、そこに牛肉を入れて汁気がなくなるまで弱火で煮るだけ。
簡単だが酒の肴にもご飯にも合う。
甘辛く煮たしぐれ煮には大根おろしを添えて提供する。
カラリと引き戸を開けて入ってきたのは王妃陛下と王太子夫妻、それにフェリクスだ。
「いらっしゃいませ!」
最近ようやく王族に慣れてきたアリッサは王妃陛下に指定されたアデルハイドの正面になるカウンター席に案内する。
そっとそこから外れたフェリクスはいつも座る席に腰掛けた。
「これがそうね?」
言う前に出されたふた品を見て王妃陛下が目を輝かせる。
「此方がスジ煮込、もう一つがしぐれ煮になりますわ」
勧められて箸を持った王妃陛下が大根を口に運んだ。
「まぁ、芯まで味が染みて……舌で溶けるようね、大根の辛味と甘味がいいわ」
「しぐれ煮にの方も、この甘しょっぱい辛さは酒が進みますね」
「飲み過ぎちゃあダメですよ?」
王太子夫妻もイチャイチャと仲良く食べながら飲んでいる。
甘口を選んだ王妃陛下に辛口を選んだ王太子夫妻、ふと横目に見ればビールと共に満足そうに食べているフェリクスが居た。
「どうかしら?」
「うん、美味しいよ、この変わった食感のコレが良いね」
こんにゃくを箸で摘んで笑顔を見せるフェリクスにアデルハイドもほっこりと口角をあげていた。
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