16:【機能】の重要性を知る
三姉さまと豊穣ちゃんの二人がひとつの世界を見守っていた。
合作なのか、その世界は緑緑していて綺麗だった。
ここでわたしの世界を見て欲しい。
第一の世界を創った後、最初に出たのが水の気ってこともあり、基本青が多め。それ以外はだいたい灰色だ。
「この世界はいま氷河期なのかしら」
「いいえ普通の大地ですけど」
「草木も生えていない大地って、あなたねぇ。もしかしてわたくしに喧嘩を売っているのかしら?」
「月ちゃん、豊穣としても言わせて貰うよ。
こんな実りのない世界は、ゴミだよゴミー!」
二人とも酷い。
なんでかわたしが世界を創ると大地がこうなるんだよー
こんな大地ばっかりだから、生物は海で進化して陸に上がらず一生を終えるのさ。
でもさぁ逆に見てくれ。この海の中を、ほぉら宝の山でしょう?
「豊穣としてもう一度言うよ。ゴミだねー」
ぐはっ
話がこれで終わるわけはなく、三姉さまのお説教に突入した。
大変長いが簡潔に纏めたなら、【機能】をすべて自分で創るのをやめなさいと言われたんだと思う。
「しかしですね。【機能】は自分で創ればタダですが、依頼すると
「そう言えば昔も言ったことがあったわね。
あなた実は馬鹿だったわね」
心外な。
「姉としてこのまま放置はできません。
あなたの世界に合う生命の【機能】を創るから神力を寄越しなさい!」
「ええっ押し売り反対です!」
「あーもう。二割引きしてあげるから今のうちに権能の重要性を体験しておきなさい」
「もう一声!」
「厚かましいわねあなた……
わたくしじゃなく『豊穣』の創った【機能】なら半額で下ろすわ」
権能が同じなら、神位の高さで【機能】の値段も上がる。安くする代わりに豊穣ちゃんに創らせるのだろうけどそれでも半値は言い過ぎだ。
差額は三姉さまが負担し、わたしと豊穣ちゃんそれぞれに利があるように分配したってことかな。
そしてこれは
「じゃあそれでお願いします」
もちろん素直に折れます。
豊穣ちゃんが『生命』の【機能】を届けてくれた。
失礼ながらさっそく解析させて貰った。豊穣ちゃんは同格の第九位『無』なので、兄貴の時のように解析不能になったりはしない。
【機能】の根幹に使われている権能は『生命』でそこ以外は実力相応。その手の作業が得意なわたしには劣り、苦手な四姉さまよりは出来が良い。
権能さえあれば再現可能って当たり前か。その権能が無いから、『
新しく創る世界に『生命』の【機能】を組み込んだ。微調整は自分でもできるのだが、豊穣ちゃんが待ったをかけた。
「あたしがやるから月ちゃんは触らないで」
もしかして信頼されてない?
でもまあ調整は創った人がやる方が良いに決まっているのだから素直にお願いした。
調整が終わり【機能】の組み込みが完了した。
世界の刻を開始してしばし眺めていると大地に緑が溢れていく。
「おおっこれがわたしの世界……?」
「こんなの普通だよ、感動するとこかなぁー」
「だってほら、こんなに早く生物が陸に上がってるんだよ!?」
「だから普通だってばー」
これが普通だと? 『豊穣』め、なんてイージーモードな世界なんだ。
いやだから世界の平均利益が低いのでは……? 過酷な世界ほど生物は神の恩恵に感謝するのではないだろうか。
「あたしねー最近やっと月ちゃんが何考えてるのか判るようになったんだ。
月ちゃんって聖の神性無かったら完全に邪神だよねー」
「それはさすがにわたしに失礼じゃないかな?」
「平均利益2000越えでしょー。年貢のきつい国と一緒じゃん。
生かさず殺さずみたいなー」
「でもさ締め付ければ吐き出すんだもん。やらないよりはやった方がいいでしょ」
「うわぁまじ邪神。引くわー。一揆する先がないから無事だけど、直乗り出来たら下克上待ったなしだよー」
ぐう……
ここまで言われては黙ってられない。わたしは陸に上がった生物が知恵をつける前に刻を止めた。
まずは三姉さまのところへ行き、『地』の【機能】を購入。さらにバザールで知り合った『鍛冶』のところへ行き、『月』と交換で『鍛冶』の【機能】を手に入れた。
鍛冶より月の方が珍しいからと沢山くれようとしたんだけど、等価交換したわたしはエライと思う。
さて集めてきた【機能】をこの世界用に調整し直して全部どーん!
世界の刻を再稼働!
豊かな大地に豊富な資源、さらに天上の鍛冶の技術を経て、世界は急速に科学文明に傾いてぐんぐんと成長していった。
宇宙船の開発、軌道エレベータの建造に宇宙コロニーまで。
しかし終焉はあっけないものだった。
軌道上に建造した宇宙コロニーが落ちてきて大陸に穴が。その後は大津波。何とか一割が生き延びたが、すぐに二つ目の宇宙コロニーが落ちてきて惑星は長い長い氷河期に入ってすべてが氷の下に消えていった。
【機能】代を差っ引いた最終利益は800っきり。いつもの半分だ。
原因を探ってみた。
どうやら『鍛冶』の【機能】が良くなかったらしい。
うすうす気づいていたけれど、稼働している世界に適用させるために、世界に合うように自分で調整したのが不味かった。
わたしの技術は研修時代に三姉さまから学んだものがルーツとなる。だから三姉さまの【機能】を調整することは比較的容易だった。
しかし『鍛冶』は違った。ルーツが違うのだから彼らの【機能】は別畑。安易に触れてよい物じゃあなかったらしい。
つまり自業自得……
改めて失敗しなかった場合の収益を試算してみた。
ふぅん1200か。
生物の進化が早く時間効率は優秀なのは認めるが、ちょっといまさら感満載かな。
わたしの神性がまだ未覚醒ならば、正の属性を目指してやっただろうけど、すでに負の属性持ちですし、人にはそれに合った世界ってのがある。
灰色の世界、いいじゃないか。
でもたまにはこんな世界も創ろうかなと少しだけ思った。今度は最初から、【機能】を埋め込んでね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます