15:バザール
バザールの出欠は締切のほぼギリギリで出席にした。
月の神性が参加ってことで大いに役立ててくださいとか思ってたのに、ギリギリ過ぎて三姉さまから「あら欠席だと思っていたわ」なんて嫌味を頂いた。
その後の三姉さまのバタつき具合を見ると、正直悪かったと思っている。
バザールの開催日。
売り手は開始時間の二時間前から会場に入ることができた。その二時間で自分のブースを用意しろということだ。
パンフと事前に受け取ったブースの番号を照らし合わせて大まかな場所を見る。
参加表明はギリギリだったけれど、ブースの割り当てはくじなので、会場の端っこで寂しくひとりなんてことは無い。与えられたブースは入口からはやや奥の方だが、前後左右があるのでお客が全く来ないってことはないはずだ。
物珍しさにきょろきょろしながら自分のブースに辿り着けば、左右のブースにはすでに人影があった。
社交性皆無ではないつもりだが、名乗りは待ち構えていたあちらの方が早かった。
右隣は男神で【第八位大:森の神性】。森の神性持ちはだいたい華奢で美形と決まっていて彼もその例に漏れずって感じ。
そして左隣も同じく男神で【第八位大:鍛冶の神性】。鍛冶の神性持ちは職人気質の頑固者。常に金槌を振るうから腕っぷしは滅法強く、華奢な森の男神に比べると腕周りは倍ありそう。まあその分、胴回りは三倍ありそうだけどね。
こちらも名乗って『月』に驚かれ、ここが終わった後に個別に依頼していいかと話を貰った。渡りに船、こちらこそと返しておく。
事前に準備しておいた値札と商品を並べていく。
始めてなので何が売れるかなんて知らないから、とにかく注文の多かった聖剣と聖女と、抱き合わせで売れた魔王をたくさん用意した。今回は注文された一品物じゃなく、コピーで増やした廉価版。つまり性能はお察しくださいってやつだね。
なお値付けは調整の甘さを考慮して、普段よりお安めにしておいた。
そして本日の目玉で、限定一点っきりの品は、【死】の権能関連を抱き合わせたその名も『死の国セット』だ!
前に試作した奴でガチ売れ残り、在庫処分とも言う。
値段はほぼ原価なのにそれでも高い。
頼むから原価くらいは回収させて……、どうかお願いします。
今回の主目的は新たな顧客の開拓。
いままで上一位の『主』以上にしか居なかった月の権能が、なんと今後は『無』に依頼できてしまうのです。これはお得でしょう?
さあ新規顧客よ、わたしの元へ!
バザールが始まった。客足は多いが、いまだ購入には至らず。どうにもここらには見物客しかいないらしい。
それにしてもパンフを見て、商品を見て、首を傾げるのはなぜだろうか?
その後も来る人来る人、みなそんな感じ。
あまりにそういう人が多いのでパンフに不備でもあるのかと、改めてパンフを確認してみた。パンフはとても簡潔で、参加者の階位と神性が書かれていた。
わたしのブース番号のところは【第九位無:月】である。
うーん違ってないなぁ。
その後、右はぼちぼち、左は結構売れるのが続いた。二人の売れ行きの差はきっと神性のレア度だと思うのだけど、それを言ったらわたしが爆売れしていないのが解せん……
決して閑古鳥ではない。
客は来ているのだ。
しかし何も売れないまま、バザールは折り返しの時刻を迎えていた。
これは堪える……ってとき、豊穣ちゃんがやって来た。なお豊穣ちゃんは参加の締め切り後に神性を発現しているから買い手参加である。
「来たよー。どう売れてるー?」
「まったく」
謙遜でも社交辞令でもない、まごうことなく事実。
売り上げは皆無です。ゼロです。
豊穣ちゃんは「ふぅん」と漏らして商品をざっと見た。そして、
「これなんのお店?」
今日散々見てきたお客と全く同じ、首を傾げるポーズをとった。
「あれバザールって安価な【機能】を売る催しだと聞いたんだけど、違った?」
「いやいやそう言う意味じゃなくてー
ここにあるのってほとんど聖の権能ばっかじゃん。月ちゃんは月の権能でしょー?
パンフみて月の【機能】を買いに来たのに売ってないのって完全に肩透かしだよー」
「でもでも、これいつも注文入ってよく売れてるやつだよ?」
「チッチッチッここはバザール。聖の権能持ちだって出店してんだぜー」
そう言えば、普段わたしに依頼をしてくれる人は、一姉さまや二姉さまが紹介してくれた人で、わたしの実力を知った上で頼んでいる人たちだ。
しかしここは不特定多数が参加するバザール。
例えわたしの【機能】の方が性能が上だろうが、『月』が売る聖の【機能】よりも、『聖』が売る聖の【機能】の方が
「おお! なるほど」
そういうからくりだったのか、理解した。
しかし目の前は真っ暗だ。
また不良在庫を抱えてしまった!
「うう。どうしよう……」
「簡単に創れる月の権能を使った品はないのー?」
簡単にって無茶を言うなーと思わないでもないが、実はある。
「四姉さまから依頼された月光を剣にした聖剣?」
「それ! そーいうのだよ!」
兄貴には不評だった品ですけどね。
これならいまある〝聖剣〟に月の属性を付与するだけなので出来ないこともない。ただし売り子をしないならという前提が必要だ。
改修とはいえ【機能】を扱うのは繊細な作業、売り子やりながらなんてやってられない。絶対失敗するやつだよ。
「よしまかせろー
あたしが売り子やるから、月ちゃんは【機能】の修正ね」
「えっいいの?」
「豊穣にドンと任せなさい!」
そう言いつつ胸を叩く豊穣ちゃん。豊穣だにとても豊かなそれが揺れた。そしてその瞬間を見た左右を含めた周囲の男神たちの鼻の下が伸びた。
大変良いものが見れたようですね!
月光の聖剣は飛ぶように売れた。
聖剣がすべて吐けたので、今度は聖女を月の巫女に改修する作業に入ったら、聖剣を買ってくれた人が別の列を作り改修待ちの行列になった。
月光の聖剣と月の巫女を買った人は常闇で創った魔王も買ってくれた。そして終了間際のギリギリで、今回新たに創った【機能】はすべて完売した。
「終わった……」
「うん終わったねー月ちゃんお疲れー」
「豊穣ちゃん! ほんとありがとう!」
さて今回創った【機能】はすべて売れてしまったが、今回創っていない【機能】ならしっかり売れ残っている。
そう限定一点限りの『死の国セット』!
これを今日のお礼に豊穣ちゃんにプレゼントだ!
「いらねー」
ガチで顔顰められた……
死の国どんなけダメなんだよ。
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