05:邪神進行

 次は二つの世界を創ることにした。


 世界を二つにしたのは対象実験のため。

 一つは最低の100で、もう一つは単純に十倍で1000にする。

 使用する神力が常に1:10なだけのクローン世界のつもり。これでどのような変化があるかを確認したい。


 まず闇の神性を返上するため、陸地は極小の1%で、ほぼ海にする。

 陸なんざいらん!

 鉱石が欲しくば海底を掘るがいい!


 ……いや待て待て自分。

 未来は千差万別、間違って陸に上がるように進化しないとも言えないだろう?

 その時、陸の狭さに神を恨むのでは……

 よし! 陸は一割だ!



 目立ったバグもなく、災害や気候変化といった介入も少なめ。

 比較実験の世界は水棲生物だけの楽園として終わった。


 神力を1:10で与え続けた場合、発生する現象の規模がただ十倍になるだけで、特別変わった変化はなかった。

 しかしミクロな部分では大きく違ったのだろう。利益率では10倍世界の方が二割ほど低かった。

 二割落ちるならば1倍の方が~と安直に考えてはいけない。

 率ではなく利益で考えると、10倍世界と同じ利益を得るには、1倍世界が八つも必要になる。時間と手間を考えると八世界同時進行なんて正直やってられない。



 極端は止め、次は500で世界を二つ創った。

 ただし二つの世界は、気候や陸海を真逆に設定してみた。

 しばし観測しているとどちらの世界にも知的生命体が誕生し、片方は水中で片方は地上で生活を始めた。

 気温が低い方は鱗が厚く、高い方は肌が岩のよう。

 とりあえずどっちも堅そう。

 大きく手を加えずに見守り、どちらの世界も平穏に終焉を迎えた。


 四度目五度目となるとさすがに書類も慣れてくる。

 片手間に書類を書き終えて三姉さまに提出すると、再び三姉さまからの呼び出しがあった。


 今度こそと意気揚々と三姉さまの元へ!


「久しぶりね『無』。五つの世界を経験したあなたをもう一度視せて頂戴」

「はい、お願いします!」

「あらいい返事。自信があるのかしら」


 ……。

 三姉さまが頭を抱えている。

 あれ?


「あなた、いったい何をやったの?

 神性が大きく闇に傾いているわよ」

「はぃ? 待ってください。今回はなにもしてないですよ?

 なのになんでわたしの神性が闇になるんですか」

「聞いているのはわたくしの方なのだけど。なにをやったのか詳しく話しなさい」


 都合四つの世界について、ざっと解説をしてみた。


「あなたね……

 実は馬鹿なの? 馬鹿なんでしょう?」

 心外な。

「そのつもりは全くありません」

「対象実験に逆検証。それって世界を好き勝手にする邪神そのものだと思わない?」

「あっ」

「一応伝えておきましょう。

 いまのあなたは大きい順に闇と水と金運の神性があるわ」

「金運?」

 どういう理屈で付くのそれ?

「どうせあなたの事だから、神力の収支はすべて黒字なんでしょう?」

 お察しの通り今まで創ったすべての世界において黒字ですが何か?


「常に黒字をたたき出すと言うことは金運の神性が付いてもおかしくないでしょう」

「はい! 三姉さまに質問です。

 その金運なら闇にも勝てますか?」

「あなたの闇、七割もあるのよね。このままじゃ無理だと思うわ」

「うぐっどうしたら……」

「今後のために闇の神性持つ知り合いを紹介してあげましょうか?」

 それ、闇まっしぐらな奴じゃないですかー




 闇……

 闇かあ……ハァ……

 あれだけ水棲生物を生み出しておきながら水は三割未満とか。きっとわたしには水の素質ないんだ。

 だからって闇は……はあ。


 気落ちしていても次の世界は創らなければならない。

 初心に返って研修時代に習ったオーソドックスな世界を創ろう。陸地や生命の種も紹介されているオーソドックスなものを参考に。

 使う神力は研修通りで安定の500です。

 こういった世界はほぼ剣あり魔法ありのファンタジーな世界になるから、あとは監視者として定期的に地上に降りて、奇跡を授けて信仰心を煽る感じで・・・・・


 う。

 ……いまの考え、邪神っぽくない?


 黒字しんこうしんはちょっと忘れよう。

 今回は世界の住人みなさまに快適に過ごして頂く方向で。

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