06:異世界召喚の裏事情
いつも通り世界を管理していると、下二位にして第八位『大』の四姉さまが転移していらした。一切の揺らぎがなかった二姉さまの転移に比べて大変お粗末で、揺らぎまくり。なんなら転移前に、来るのが判るほど。
いや人の事は言えない。わたしの転移もまだまだだ。精進せねば。
「お久しぶりです。大姉さま、どうされました?」
心の中は四姉さま、しかし口に出すのは『大』姉さまだ。言い間違えるとめんど……じゃなくて、機嫌が大変悪くなる。三姉さまらと違って、まだ階位が低いから心に余裕が無いのだと思う。
そんな四姉さまの神力は手が届きそうで、だが絶対に届かない位置にある。
五つの世界を経験したわたしの神力はまだ一万にも届いていない。あと三つ、いや二つで桁は上がるが、きっとそれよりはまだまだ高い。
二姉さまや三姉さまに比べれば矮小だった四姉さまも、同じ土俵に入ってみると実はすごく遠い存在だと改めて思い知らされた。
「新たに神格を得て、世界を創造したんですってね。
普通より早いのはあーしの指導のお陰よね?」
「大姉さまには大変感謝しております」
計算間違いで気候変動起こしたり、術式の維持に失敗して流星が落ちたりとまあ、やらかすことやらかすこと。
そんな四姉さまを表すにふさわしい言葉はきっと〝うかつ〟に違いないわ。
ちなみに四姉さまもわたしと同じくまだ確定した神性は発現していない。けれど三姉さまの鑑定によれば〝戦〟方向に傾きつつあるらしい。
〝火〟やら〝戦〟ってのはつまるところ脳筋である。
脳筋……
二姉さまからこっち、脳筋→繊細→脳筋→繊細と、交互に続くのは果たして偶然だろうか。
ところで。うかつな行動による世界の破滅危機よりも、比較実験とかの方が邪神認定されるのってどうよ?
「ねえ。その
貸しと来ましたか。
四姉さまのうかつから起きた事変は、研修時の体験としては多彩にして難問でした。そういう意味では良い経験をさせていただいたとは思っていますが。
ソウデスカ、貸しでしたか。
むしろこっちが貸してる気分でしたよ……
「返すと言われましても、わたしは見ての通り神になりたてのド新米ですよ。大姉さまにお返しできるようなことは何もないかと思います」
「ああ大丈夫、大丈夫。ちょっとバグ処理でミスっちゃってさ。巻き添えになった子をそっちで引き取って欲しいのよ。
どう簡単でしょ?」
「引き取る、ですか?」
うわぁい、厄介ごとの香りしかしないわー
「ウチの天使の監視が甘くてねーバグの発見が遅れたのよ。
で、処理したらボン! いやーびっくりしたわー」
そうか四姉さまは天使の監視を使ってるんだ。
天使とは自分が楽をするためのシステムの一つで、神力を一部消費して創るロボットのような存在だ。
創ったときの設定そのままに忠実に作業をするので、創るときに細かく設定すれば、それはもう優秀な使いとなるが、設定が荒ければどれだけ神力を注ごうが無能。
つまりうかつで雑な四姉さまとはことごとく相性が悪い。
逆に細かい性格のわたしとは相性が良いのだけど、まだ管理世界が少ないし、それを設定する手間を思えば自分で視る方が楽なので創らないヤツ。
それを知ってか知らずか、「天使はやっぱダメねー」とぼやく四姉さまに、ダメなのはあなたですとは言えない。
「まっバグの方は解決したんだけどー
巻き込まれて死んだ可哀そうな子が居てさー、そっちに転生して欲しいんだけど。もちろんいいわよね」
断られると思っていないのだろう、問いのはずなのに、四姉さまの語尾にははてなマークは無かった。
異世界の○○。
ある世界で死に、異世界へ転移、もしくは転生するボーナスゲーム的な状態をいう。○○には大抵〝勇者〟や〝聖女〟と言う言葉が入る。
一連の流れはこんな感じだ。
1)元の世界で死んだAに、異世界で生まれ変わる選択があることが伝えられる
2)この時現れる神は、現地神の場合と異世界神の場合の2パターンが存在する
3)Aは承諾し、大抵チート能力もしくは装備を手に入れて、異世界でやり直す
ちなみにこれ、受け入れ側である異世界神。つまりわたしには全く利益がない。なんなら負担の方が多かったりする。
なぜか?
判りやすく2)に固有名を入れて解説してみよう。
2)この時現れる神は、四姉さま(現地神バージョン)と四姉さま(異世界神バージョン)の2パターンが存在する
要するにAの感謝や信仰は、すべて、わたしではなく四姉さまに向かうのだ。
さらに言うと、Aチートを与えるのは四姉さまで、四姉さまはより感謝されるためにチート能力を過分に与えることだろう。それこそ世界のバランスなど無視した力を!
阻止したい。
しかし悲しいかな、この脳筋は
さすがに本気出せば排除できるだろう。
でもそれをやると、四姉さまに向かう【信仰】が途絶えるので、始末したのがバレる。やって来た異世界人はお客様、ながーく快適に生きて貰うのが鉄則だ。
だが強い能力を持ったAが長くわたしの世界で生きるということはとても不味い。
世界統一されたり、その余波で種族が滅んだり、脅威設定した魔物がすべて討伐されたりと、正直リスクしかない。
やってらんない、断りてー!
「うち、魔王とかいませんよ」
「創りなさいよ」
「わたしは生まれたての『無』ですよ。神力にそんな余裕はありません」
コマンド『逃げ出す』を発動。
六つ目の世界を創っておいて、生まれたてはやや苦しいけれど気にしない。
「5上げるわ、それで創って」
しかし回り込まれてしまった。
魔王からは逃げられない!
確かに神力5があれば魔王は余裕で創れるだろう。と言うか500ぽっちの世界で1%に当たる神力5も使ったら魔王倒せませんけど?
なに考えてるんですかね、この脳筋。
「判りました魔王はうちの世界にあった強さで創ります。
そしてそちらにも制約をお願いします。
まず不老不死は駄目です。あと装備も出来ればやめてください。もしどうしてもって言うなら、使ったら片づけるを徹底してください。本人のみ使用可。間違っても子々孫々に語り継げるようなものは却下ですよ」
「はいはい判ってるって、心配性ねぇ」
いいえ心配はしてませんよ、一切信頼してないだけです。
この脳筋、そういう細かい術式苦手だったもん。絶対に消えずに残るやつですわー
魔改造された神器が残ったら大惨事。絶対に回収しないと!
かくなる上は降臨して付いていくしかないか……
「ああそうそう。弱めの魔王創るんでしょ。残りは返しなさいよ」
は? そう来るならこっちも奥の手を出しますね。
「今回の件、三姉さまに相だ「チッ少ないけどご祝儀に上げるわ」」
勝った! けど、ほんとに少ないですわー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます