04:闇落ち中

 そろそろ次の世界を~と考えていると三姉さまから呼び出しがあった。

 先日、初めての世界が終焉したので、そのヒヤリングだろうと予想している。


「失礼します。第九位『無』、参りました」

「いらっしゃい『無』。神に昇格してからは初めてね、まずはおめでとうかしら」


 下一位、第七位『権』の三姉さまは、鈍い金髪と言うと少しは聞こえが良いけど、端的に言うと黄土色の髪。手足でさえ肌を晒さないロングドレスを着用し、その色合いは黒とこげ茶と黄と非常に重い。

 判りやすく言い直すと土色の髪と土色の服、この地味さが有名ゆえに平凡な大地の神性を思わせる。


 一姉さまは論外として。自称神力53万の二姉さまほどの圧迫はないが、わたしが遠く及ばないのはよくわかる。たぶん第七位『権』の神力は10万ほど。彼女から見れば3000ぽっちのわたしなど塵に等しかろう。


「ありがとうございます三姉さま」


 三姉さまがふぃっと左手を振ると、わたしたちの間にテーブルと椅子、さらにティーセットが現れた。

 わたしにも出来ないことは無いけれどひとりじゃ絶対やらないヤツ。

 まずは三姉さまが座り、促されてわたしも向かいに座った。


「今日来てもらった要件は一つよ」

「先日終焉した初めての世界の話ですよね?」

「いいえ違うわ。

 わたくしの役目はそれを得て、あなたの神性がどう変わったかを視るの」

「神性ですか? まだ一つ目ですよ」

 一姉さまは光と少々の闇を、二姉さまは炎で、三姉さまは大地だ。

 しかし第八位『大』の四姉さまにはまだ決まった神性はなく、戦に傾きつつあるとだけ聞いている。

 幾多の世界を経験した四姉さまでも、未だ神性なしだと言うのに、一つばかの世界を終えたわたしに神性が発現するとは到底思えない。


「同じ世界は二つとないのですもの、一つでも貴重な経験でしょう?」

「確かにそうですけど……」

「それにいま視ておけば、今後の指標になるわよ。

 地味な大地の神性なんて嫌でしょう?」

「いいえ嫌じゃないですけど」

 あっぶなーノータイムで返すことに成功したわ。

 三姉さまは意味深に口元を緩ませるのみ。

 バレていないと思いたいけど、これはどっちだろう?




 物は試しと、三姉さまに視て頂いた。

「水と闇のがあるわ。いまは特に水が強いみたいだけど、まだまだ誤差ね。闇も十分に逆転可能よ」

 水は100%海中生物の所為ですわー

 しかし闇は何だろう? 覚えがないなぁ。


「初回から光無くして闇だけが出るのは珍しいわね。

 このまま邪神まっしぐらかしら?」

 光ありの闇ならば未来は一姉さまなのだが、わたしには光がないようで、闇オンリーならばそれはただの邪神である。

「うぐ邪神は嫌ですね……」

 邪神になっても扱いは変わることはなく、ただそう呼ばれるだけ。しかし人で言えば、悪党だの悪人だのと呼ばれて嬉しい人はいないのと同じだ。


「ほら視て良かったでしょう? 邪神と呼ばれたくないのなら行いを改めることね」

 はいと言いたいところだが、とんと覚えがないので改めるべき事柄が判らない。そういう場合はどうしたらいいのやら。



 全く判らなかったので、第一世界の経過を話し三姉さまから助言を貰った。

 さすがは堅実堅牢な三姉さま。

 大雑把な二姉さまと違って的確な答えをくれた。


 まず一つ目、海の温度を上げたこと。

 続いて、食糧危機を煽ったこと。

 さらに陸上生物と海中生物の争い。

 大きく、この三つが闇に寄る行為だそうだ。

 世界の住人はこれらの行為に対して〝救い〟ではなく〝苦痛〟を多く感じたと。


 しかし試算を行うとそれぞれの収支は+で、やった方が良いことだった。

数字しんこうがすべてと言ったドライな考え方は闇に傾きやすいわよ。本気で闇の神性が嫌なら注意なさい」

「わかりました。気を付けます」

 黒字を求めると闇へ向かうかー

 ならば光の神性を得た一姉さまは、いったい如何ほどの赤字を出してきたのやら……



 そもそもわたしは赤字が嫌いだ。

 そして黒字を見込まれ二姉さまの目に留まり、第九位の『無』ではあるが、神へと昇格したのだと思っている。

 しかしこのまま黒字を突き詰めると、同期よりも早く昇格するが神性は闇になる。逆に赤字覚悟で救済すれば光の神性が得られる代わりに、昇格は遠のく。

 神力が低い序盤、赤字は特に痛い。

 だが神性は序盤ほど大きく動き、それを超えると動かなくなる。

 なんというジレンマだろうか。


 うん、やっぱ赤字は性格的に無理だわ。

 この際、闇じゃなければなんでもいい、水だ。水にしよう。

 そして改めて思う。

 一姉さまは凄い!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る