03:終焉

 さあて今日も創造した世界を見守りましょう。


 もちろんただ見守っているだけではない。世界創造の際にあえて塞がなかった穴の監視と、創造時に気づかず見落とした穴の探索を行っている。

 あえて放置していた方は想定を超えない限りはそのままだけど、見落とした方は何が起きるか判りませんので真剣に探していますよ。

 その間に無形から定形へ生物が進化していた。親が無くとも子は育つの良い例かも。ちなみに未知の穴はひとつも発見できていない。

 わたしの創造が完璧だったのか、それとも見落としているのか? あるかないかも分からない穴を探す作業は苦痛でしかない。

 その点、二姉さまの世界ではぼろぼろと見つかって達成感はひとしおだったなぁと思い出す。

 もしやそのためにあえて穴を残した……?

 いやいや考えすぎだ。あの人は大雑把なだけ、部下わたしにそんな心遣いができるひとじゃあない。



 さらに刻が過ぎ定形の生物の一部が陸に上がったが、大半はまだまだ海の中だ。

 むむむっ海の比率を広くし過ぎたかな?

 敵対種族が陸と海に分かれたら争いに発展しないじゃあないか。今後、地殻変動を起こして陸を広げることも考慮しないとダメかも。

 それとも津波で陸を削るってのもありかな?

 いやいやこれ以上陸を削ってどうするよ。大地の恩恵は海の恩恵に並ぶ、貴重な【信仰】回収手段だ。それをフイにするのはちょっと困る、陸の生物にはぜひ頑張って巻き返して貰いたい。

 いやまあ。そりゃあ海底を掘れば鉱石は出てくるだろうけどね。

 水の中じゃあ火は使えないので、鉱石がインゴットになることはない。道具によるバフがないのだからクラゲと魚が戦えば生まれ持った能力のみで勝敗が決まってしまう世界ということ。ズバリ野生ですね。


 とりあえずとりっぱぐれが無いように、少しばかり神力を注いで、海水の温度を5℃ほど上昇させてみた。

 さあ海から出ていけ!

 またしばらく様子見だね。



 ついに知的生命体が誕生した。

 ただし海の中に……

 うーむ。中途半端な温度の上昇では駄目だったのだろうか?

 景気よく50℃上げりゃよかったか。いやそれだと海中生物がすべて死滅したはず。絶滅からのリセットは大変非効率だ。


 知的生命体が生まれぬまま終える世界もあると聞く。

 ならばまずは誕生こそを喜ぼう。

 そして今回の温度変化は適切だった、リセット再生も不要だったと、二つの点で神力を節約できたと自分を誇ろう。



 生まれた知的生命体は進化を続けている。

 やがて彼らは集まり始め海中で集団生活を始めたようだ。

 人……と呼称するが、人は集まれば意見が分かれる生物である。意見が違えば争って決めるのも人である。

 強者は弱者を従え、どんどんと大きな集団になっていく。集団が増えて行けば、酷い扱いをされることもあるだろう。


 ここがチャンス、さっと手を差し伸べるのだ。すると、彼らは『神に祈る』ことを学習してくれる。

 ついに、ほそぼそとではあるが、知的生命体から【信仰】を得られるようになった。

 経過は順調。

 海の生物、やたらデカイけど悪くないかも。



 さらに経過。

 前言撤回、このままのサイズで増えられると星の生命が先に尽きる。

 神力を少し投入して、海の実りを減らし大きな飢餓状態を演出、要するに得られる食糧を制限してみた。

 刻が進むと、やがて少ない食糧で満足できるように、コンパクトな体に進化してくれた。

 やった!

 まあそれでも浮力の影響か、陸上生物よりも巨大だ。

 もうしばらくは食糧難を継続するぞー



 さらに月日は流れ、体のサイズは陸上生物の二倍程度に落ち着いたらしい。

 そして彼らは国を造っていた。もちろん一つではなく複数だ。


 うーんそろそろ限界かな?

 陸に上がった生物がたいへん弱く、このまま行くと陸への上陸手段を手に入れた海の生物に駆逐される未来しか見えない。

 体のサイズは二倍、おまけに向こうの方が知力が高いんだもん。


 わたしは神力を少し使って、陸の生物に〝知恵〟を授けた。

 神力注入の裏技、強制進化である。

 一気に知的生命体に昇り詰めるため大変楽だが、根底に神への従僕心が芽生えるため、得られる【信仰】の純度が落ちると言う問題がある。

 要するに量は同じなのにどこか薄っぺらいのだ。

 そのため研修時のマニュアルでは〝非推奨〟と謳われているが、ゼロよりはマシなので『それなりに使われてるよ~』と二姉さまから聞いた。

 多分だけど、雑な二姉さまが結構な頻度で使ってるだけだと思う。


 今回、この世界はすでに海で覇権が争われているので、陸は実験場にしてもなんら問題ない。実際どのくらい【信仰】が薄くなるのか経験しておこうと思う。



 海の勢力が、だいたい二分された。

 創造時に埋め込んだ、敵対種族の種が芽吹いたのだろう。

 さらに陸vs海の図式も出始めて、二分する予定が三つ巴になってしまった。

 どうしてこうなった?


 ログを追い、やっと理解した。

 ああなるほど、陸の生物を強制進化させたのが不味かったのか。

 流石は〝非推奨〟。嘘偽りなしだわ。


 しばらく経ち一つの世界が終わった。

 得られた【信仰】は+1200ほど。収支は黒字だ。陸に介入しなければ800ほどだったと試算できたので、あのタイミングでの参入は正解だったようだ。

 ただし自力で進化できていた場合の試算は、どうやら1700ほどだったようで、大変悔やまれる。

 +900予定から+400へ減少なので、あれをやると【信仰】は半分以下の薄さになるらしい。

 しかしゼロよりはマシなのは確かである。

 じつに悩ましいね。


 世界が終焉したので、創造時と同じく世界終焉の書類を書いて三姉さまに提出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る