第一幕/第二話-1 オークションとアカウント登録
真っ暗な部屋に突然現れた真っ白な扉。
明かりがそこにだけあり、その存在感が心臓の鼓動を昂らせる。
マサトは立ち上がり、白い扉に向かって歩いていく。
突然届いた黒いスマホと一通の招待状。
ブラックマーケットの招待状だ。
いつの頃からかSNS上に書き込まれるようになった、ありとあらゆるものが手に入る謎のオークション会場。
会場という割には実際に出向くわけではなく、スマホでオークションに参加するものらしい。
たまたまそのオークション会場を利用したという人物の書き込みを親友と見たのが始まりだっか?
わりとすぐにその書き込みの人物のアカウントは削除されて詳細は分からずじまいだった。
ある日、親友の元に荷物が届いた。
頼んだ覚えのない荷物だ。
家に帰ると部屋に置いてあったらしい。
変な荷物が届いたとバカみたいに騒いでいたのを覚えている。
「マサト、やべえ。なんか届いたんだけど!」
興奮気味に通話してきたのは親友の
「なんかってなんだよ」
マサトは興奮する親友に聞き返した。
「あ、わりぃー、なんか黒いスマホと招待状?っぽいのが届いた」
宅配用の箱に丁寧に梱包されたスマホと黒い封筒の招待状をトウマがマサトにビデオ通話で見せながら言う。
「は?なんだよそれ。
ん?それこないだSNSで見た招待状か?」
マサトが画面越しにスマホと招待状を見る。
「スマホは電源入らねえし、充電器もねえー。
招待状はこれから開ける!」
「おいっ、トウマ、ちょっ待てって!
俺が行くまで何も触んなっ!」
マサトが言い終わらないうちにトウマは通話を終わらせ、ツーツーと終了音だけががマサトの耳に届く。
2人の家は割と近くにあり、いわゆる幼馴染ってやつだ。
すぐに通話し直したが繋がらず、玄関に足早に向かっている途中で着信音が聞こえた。
「招待状の中身は地図みたいだったぞ」
先程興奮した様子ではなく、少し落ち着いた声でトウマが話す。
「いきなり、切んなよ。開けんなっつたのに。
で、俺も一緒に行けるのか?」
玄関に座り靴を履きながら顔と肩でスマホを挟みながらマサトが返事をする。
「あー無理っぽい。
一人でお越しくださいって書いてあるわ」
「行くのか?」
「そうだな。欲しいものが何でも手に入るなら、オレには欲しいものがある。
お前なら分かるだろ?」
「……チヅルか」
「ああ、チヅルが居なくなって半年だ。
このオークションなら、チヅルの情報だって……!」
半年前、突然俺たちの前から姿を消した。
事故か事件か何も分からないまま、ただ時間だけが過ぎていく。
トウマを一人で行かせるわけにはいかない。
だけど、ルールに従わなければどうなるか分からない。
トウマに届いた招待状。
オークション会場の存在。
何かが足りなくて欠けていたパズルの最後のピースが見つかった、そんな気がした。
チヅルの失踪とこれは間違いなく関係しているはずだ。
「俺も必ずたどり着く。
だからトウマ、ぜってぇ死ぬんじゃねぇぞ」
「ああ。任せとけ。待ってるかんな、マサト。
オークションには専用のスマホと招待状だからな、絶対忘れんなよ」
「ああ、サンキューな。なんか分かったらまた連絡くれよな」
トウマと話したのはその時が最後だ。
それが半年前だ。チヅルが居なくなって1年、トウマが居なくなって半年。
それなのに親も友達も慌てる様子がない。
なんとも言えない違和感を抱えたままどうすることも出来ず俺は自分に招待状が来るのを待ち続けた。
人が居なくなっているのは事実なのに、騒ぎにならない。
それがたまらなく不気味でならなかった。
居たことは憶えているのに、存在感みたいなものが薄れていく。
顔も声も名前さえ何もかもが曖昧になっていく気がして怖くなる。
俺だけはトウマとチヅルのことを決して忘れたりしない。
消えそうな親友の名前も顔も声も何もかも、全てを脳に焼き付けろ。
忘れるな
やらなきゃならないことがある
欲しいものは全て手に入れろ
焼き付けろ
脳に
刻め
己の魂に
従え
己の心に
あいつとまた馬鹿騒ぎして笑って過ごす当たり前で平和で平凡な日常を取り戻すために……
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