第二節 SCENE-003「魔術師、暴く」



 突然の〝目覚め〟を経て、伊月は自身が今とは全くの別人として生きていた記憶を持つ、レナトゥスと呼ばれる存在であることを自覚した。


 それは、伊月と鏡夜が本当に一魂性双生児――元は同じ一つの霊魂を二つの肉体に分け合って生まれた双子であったなら、起こるはずのない〝目覚め〟だった。




 伊月がレナトゥスとして自身の前世に当たる人物の記憶を思い出したということは、〝八坂伊月〟の肉体に宿っている霊魂たましいには少なくとも、本来であれば死後に漂白されるはずの記憶を守り切るほどの〝加護〟が存在しているということで。

 伊月がレナトゥスである以上、その霊魂に欠けたところはなく。伊月と鏡夜は一人分の霊魂たましいを二つの肉体に分け合って生まれた双子の姉弟ではありえない。


 その上で、とうの昔に死んでいる女の記憶を持ち、レナトゥスとしての〝目覚め〟を経てその全てを思い出してもいる今の伊月には、何食わぬ顔で〝八坂伊月〟のそばにいる〝片割れ〟の正体に、心当たりがあった。




 そもそもレナトゥスとは、本来であれば死後に漂白され、まっさらな状態で生まれなおすはずの霊魂を〝世界のことわり〟から庇護できるほどの〝力〟を持った存在が、特定の個人へ度を超して執着したとき、その執着心が霊魂への加護――あるいは呪いとなって生まれるとされているものなので。レナトゥスとしての〝目覚め〟を経て、自身がどこの誰の生まれ変わりなのかを把握している今の伊月が、自身に執着する何者か――それも、死後の霊魂を記憶の漂白から庇護できるほどの〝力〟を持った存在にまったく心当たりがない、などということがあるはずもなく。




「(いったいどうやって、〝私〟が新しく生まれる先にまでついてきたわけ?)」


 自身がレナトゥスであることを自覚していて、鏡夜が本当の〝片割れ〟ではないことに確信を持ち、あまつさえ、その正体に見当を付けていることを、伊月が隠そうともしないでいると。最初から確信に近いものを持っている、鏡夜の〝正体〟に対する感情――一度は死んだ女のためによくもそこまでするものだ、という呆れを態度に滲ませた伊月の前で、伊月と瓜二つの少年は、正体を言い当てられた妖魔そのものの反応でまとう空気を一変させた。



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