第二節 SCENE-004「魔術師、当てられる」


「(お前、記憶が――?)」


 念話のために繋げている魔力の経路パスから伝わってくる、魔力の揺らぎ――優れた念話の使い手であればあるほど小さく抑えることができる、念話における〝息遣い〟のようなものが、ぴたりと凪いで。


 束の間の静寂――虚をつかれ、呆けたような沈黙の直後。引き波の後にやってくる大波のよう押し寄せてきた感情の奔流――念話と呼ぶのも烏滸がましい、言葉にならない鏡夜の思念が、伊月の意識をぐわんと揺らす。


「(――馬鹿なんじゃないの!?)」


 他人の強すぎる感情に当てられ、軽い脳震盪めいた、〝精神汚染〟一歩手前の酷い気分の悪さを覚えた伊月ははたまらず、鏡夜と繋いでいた手を振りほどき――目には見えない魔力の〝繋がり〟を補助していた物理的な接触ごと、念話の経路を断ち切った。


「あ……」


 ブツッ、と手荒く遮断された念和の経路――その衝撃で我に返った鏡夜の声も、自分のことで手一杯になった伊月の耳には届かない。


 ぐわんぐわんと揺れているような感覚が止まない頭を抱えながら、ふらつくように数歩、鏡夜――自分をこんな目に遭わせた元凶から距離を取り、伊月はきつく目を瞑った。



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