第二節 SCENE-003


「伊月ちゃんと鏡夜くんは、まだ龍を見たことがなかったよね?」

「――りゅう・・・?」


 わざわざ食事時にやって来て、子供の食事風景を眺めながら食卓に頬杖をついているような父親を見て育った双子が、家族以外、他人の目もないような場所での行儀作法にうるさく育つはずもなく。

 食事中だろうと構わず話しかけてくる襲に、伊月は伊月で、目上の者からの話に真摯な態度で向き合うような殊勝さを見せることはなく、すっかり気を抜いた態度と仕草で、コースターの上で汗をかきはじめているグラスに手を伸ばした。


「それって、どっちのりゅう? 千年生きたみずちに足が生えて飛ぶようになった龍? それとも、翼が生えてるトカゲの竜?」

「もちろん羽無し・・・の方だよ。〔倭〕の庭に真性ほんものドラゴンはいないからね」

「どっちも見たことないけど。なに、次は龍を狩るの?」


 その声色は、まるで親からちょっとしたおつかい・・・・を引き受けようとしている子供のそれだった。


「まさか。そんな危ないことはさせないよ」

「なぁんだ」

「今日はお客さんが来るんだよ。うちと神門みかどの仲介をやってくれてる魅縛士みばくしと、その人の使役がね」

「その使役が龍なの?」

「そう。見回りがてら飛んでくるって言ってたから、見かけたら失礼のないように、行儀良くしておくんだよ」

「はぁい」

「鏡夜くんも、いい?」


 余程、気を遣う相手なのだと窺える。

 襲からの念押しに、ちょうど味噌汁を口に含んだところだった鏡夜はこくりと頷いて返す。




 良くも悪くも、鏡夜のことを信用している襲はそれで充分だと。鏡夜からそれ以上の反応を引き出そうとはしなかった。



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