第二節

第二節 SCENE-001


 一風呂ひとっぷろ浴びて、こざっぱりとした双子が母屋に顔を出すと。ちょうど、もっぱら食事室ダイニングとして使われている部屋で、八坂主に仕える神使の一人が食事の配膳を終えようとしているところだった。




「シズ」

「はい。――お二人とも、今日もお勤めご苦労様でした」


 湯上がりに浴衣一枚で、ぺたぺたと裸足の足音をさせながらやってきた双子に、双子の母親代わりと言っても過言ではない女神使――シズはおっとり微笑んで、仕度の終わった食卓の前から立ち上がる。


「どうぞ、ごゆっくり」


 元がどうであれ、今は生身の徒人というわけではなく、人外ひとでなしとしての存在を維持するためのリソースも仕えている国津神が契約する御神木から供給されている神使に、食事の必要はなく。双子と食卓を囲むことなど滅多にない女神使は、神子という肩書を持つ双子に対して相応に恭しく一礼すると、次の仕事に取りかかるため、一旦は用のなくなった居間を後にした。




 楚々とした振る舞いで立ち去るシズを「ありがとうね」と見送った伊月が、食卓につく。


 二人分の食事が、シズの几帳面な性格そのままに整然と用意されている食卓の前に鏡夜も座り、伊月と示し合わせたようなタイミングで――まったくそんなつもりはなかったのに、自然と揃った仕草で手を合わせると。手元に落とした視線をもう一度上げる頃には、双子が肩を並べて座っている座卓の向こうに、一人の男が忽然と現れていた。




かさね?」


 鏡夜ほどではないにせよ、襲も、伊月と並べば血の繋がりを感じられる程度には似通った容姿をしている。


 実の父親を馴れ馴れしく呼び捨てる伊月の声には、どういう風の吹き回しだという疑問符が浮かんでいた。



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