第一節 SCENE-006


「(私の勝ちー。今日も先にお風呂もらうわね)」

「(はいはい)」


 そんなやり取りをしてから、数分後。

 結果の分かりきっている勝負事に付き合わされた鏡夜が、さっぱり人気のない里を駆け抜けて、唯一の人家である八坂の家へ帰ってくると。周囲の廃屋と比べて一際大きな屋敷に設えられた長屋門の前では、いつものように、八坂主の神使しんし――八坂の地に根を張る御神木の契約者であり、張り巡らされた地脈の管理者である国津神の使いが、夜狩から戻る討滅士見習いのことを待ち構えていた。


「ただいま」

「おかえり。伊月は先に戻ったぞ」

「知ってるよ」

「まぁ、いつものことだしな。――魔力結晶マテリアを」


 八坂主を親に持ち、神子という肩書きを持つ双子にとっては家族も同然の相手である神使――クロウへと、夜狩の間に双子が討滅した妖魔の魔力結晶マテリアを渡してようやく、鏡夜は自分が生まれ育った家の門をくぐることが許される。




 長屋門と、そこから伸びる塀に沿って張られた結界は、討滅士として活動する以上、妖魔の恨みを買いやすい家人を守るためのもので。

 氏神として、氏子を守る国津神の威信にかけて張り巡らされた結界は、それがなんであれ、妖魔の匂い・・がするものを通しはしない。


 そのことをわかっていて、伊月は鏡夜に妖魔の魔力結晶マテリアを任せるし、鏡夜は鏡夜で、伊月が億劫なら自分がやればいいという考えなので。双子から魔力結晶マテリアを受け取るために待ち構えている神使とのやり取りも、いつものことだった。




「〝いつものこと〟と言えば、今日は戻りが少し遅かったか?」

「一匹、すばしこいのがいたんだよ。そいつを二人で追いかけ回してたから」


 八坂の里にたった二人の討滅士ということで、夜ごと狩りに駆り出されている双子が帰ってくるには遅い時間だと、東の方から白みはじめている空を見上げたクロウが言うと。鏡夜はクロウの手に乗せた包み――呪符でくるんだ魔力結晶マテリアのうち、最後に仕留めた妖魔のものを、これだと示す。


「なるほどな」


 その大きさや魔力の残滓からでも、その妖魔が双子にとって脅威となるほどのものではないことが窺えて。クロウは一介の神使というよりも、双子の成長を見守ってきた近親者としての気遣い混じりの話を切り上げた。


「行っていいぞ。毎度のことだが、魔力の残滓はきっちり流しておけよ」

「わかってるよ」


 クロウに促された鏡夜は長屋門に設けられた通用口を抜けて、屋敷の敷地内へと入っていく。


 くまなく張り巡らされた結界の内側から、鏡夜の手で通用口が閉ざされるのを見届けて。門の反対側から遠ざかっていく子供の足音に続くよう、クロウもその場をあとにした。



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