第一節 SCENE-005「見習い、夜狩を終える」


「先走りすぎだよ」

「鏡夜が遅いから」


 国津神――地脈の管理者からの支援が望めるとはいえ、メトセラと比べて遥かに非力かつ、脆弱な徒人の身で妖魔と相対する以上、討滅士は二人一組での行動が原則とされている。


 討滅士云々を別にしても、お互いの安全のため、夜狩の間は二人で行動するべきなのに……と。いつもの調子で理論武装した鏡夜の批難がましい声に、伊月は「ついて来れない方が悪いのよ」と言わんばかりの態度で取り合わない。


「ハァ……」


 どこまでも自分本位な伊月の振る舞いにも、鏡夜は慣れたものだった。


 聞き入れられないとわかっていても、一言くらいは言わずにいれない。

 それこそ母のはらから取り上げられ、親に名付けられるより前から伊月の〝片割れ〟として過ごしている鏡夜はやれやれと露骨な溜息一つで、伊月に対する小言を吐ききった。




「今日はこれで打ち止めかしらね」


 目に見えて形の崩れてきた妖魔の骸から、伊月の手が幾つかの欠片に砕かれた魔力結晶マテリア――既に事切れている妖魔が霊魂たましいの拠り所としていたものの残骸を拾い上げる。


「そうだね。……そろそろ夜も明けそうだし」


 そうすることが当然のよう、自然な態度で差し出された魔力結晶マテリアの欠片たちを、鏡夜は懐から取り出した霊符で包むようにして受け取った。



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