第一節 SCENE-004「魔術師、合流する」


「(伊月――)」


 頭の中で直接囁かれたような、空気の揺れを伴わない声に呼ばれて。

 物言わぬ妖魔の骸を見るともなしにぼんやりと眺めていた伊月は、夜の暗さに紛れて見えもしない自分自身の影を踏みにじるのを止めた。




 ありもしない声が聞こえてきた方向を、名状しがたい感覚で捉えた伊月が振り返ると。示し合わせていたかのようなタイミングで、魔術で補助された視界にもう一人、伊月とともに夜の森を駆け回っていた討滅士見習いの姿が飛び込んでくる。




「伊月」


 ろくに目印もない森の中を、伊月へと届かせた念話の経路パス――目には見えない魔力の繋がりを頼りに伊月の下へと辿り着いた少年は、年頃のわりに小柄な伊月と、背格好どころか容姿の細部に至るまでが鏡に映したよう瓜二つ。


 二人が並んでいる姿を見れば、誰の目にも双子だと一目瞭然の〝片割れ〟――鏡夜きょうやから呼ばれた伊月は、返事の代わりにゆるりと一度、瞬いた。


 それから、ふと思い出したような素振りで、抜き身のまま携えていた短刀の刃を拭って鞘へと戻す。




 その足元では、息絶えることで意識とともに魔力に対する拘束力をも失った妖魔の骸が、霊魂の抜け落ちた〝魔力の塊〟からもっと純粋な魔素エーテルの状態へとほどけはじめていた。



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