隣近所との距離が近いので

 うちはよそより静かだと思う。


「また大きな声喋って。うるさいって怒鳴られるんだよ」


 隣、向い、裏のお宅とバリエーションを変えながら、忘れた頃に母は言う。

 確かに私の声は小さくない。が、苦情が来るほど大きくも無い。

 むしろ、少し離れたお宅の方が騒がしい。庭でバーベキューをやるお宅や、自宅飲みでカラオケをやるお宅、自宅を工場にしているお宅の方が音と言うなら大きい。

 笑う事も、声を出して誰かを呼ぶ事も、うちでは出来ない。

 もう一つ、静かにしなければならないバリエーションがある。


「お向かいの●●さんが盗聴しているから静かに」


 それで一度、母は警察に電話をしてしまった。

 どこに電話しているのか気が付き、慌てて部屋から駆けつけ、母から受話器を取り上げたときには血の気が引いていた。

 本当にパトカーなんかが来て、無関係のご近所さん方を巻き込むわけにいかない。


「えりは誰にも好かれないから死んでも誰も困らないって▲▲さんちの旦那さんが言ってる。殺してやろうって奥さんと話してる」


 私の座右の銘は、心にも無い事は言葉にもならないだ。


「お母さんも言ってたもんね、私みたいなのは誰にも好かれないって。嫌われ者がいなくなるのは良いことじゃん」


 それでうちも静かになる。満足でしょう?

 だが母はこう言うのだ。


「駄目だよ」


 私が死んでもかまわないと言ったも同然だと思うんだけど。


「えりがいなくなったらお母さんが困るんだからね」


 あなたの談によればだけど、私が殺される心配より、自分が困ることが優先ですか。

 死んでも奴隷でいろと言うことですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る