風の便り

 廊下で、顔を合わせるなり母が聞いてきた。


「用意できた?」

「え、何の?」


 ここで、どこぞの病院の名前が出て来るのなら、ああ、予約日間違えててるんだな、出かける用意の事だな、といつもの事にできたのだが、この日の母は、少し止まった後、何も言わず振り返り、ズルズルとスリッパを引き摺りばがら、ゆっくり壁伝いに部屋へと帰っていった。

 何だったのか。言っただけなのか。で? というところで会話は終わった。 

 終わったと思っていた。


「葬式いったのか?」


 用意ってそれ?!

 いや誰の!! 

 え? 葬式出るの??!


 今のところ、お葬式の連絡はありません。

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