音にノるのムズ

 タッ、ドッ、たっどん。

 タッ、ドッ、たっどん。

 どっ、どっ、とととと。

 ドッ

 ドッ

 タッ、どん、ととと。

 とととととと、ととととと

 ぎぎぎぎぎ、ガチャン。


 母がトイレに向かう足音は、たまにこうなる。

 聞いていると不安定さに不安が募り、息を詰め、目を閉じ、距離を測って、早く、無事にこの音が止んで欲しいと思う。

 ミシンに向かう手を止め、音が止むのを待つ。

 私の部屋の前を通り過ぎてトイレに向かうことを願う。


 立ち止まるな。

 呼ぶな。

 私を呼ぶな。


 この足音をさせているときの母に呼ばれると、悪寒がするのだ。

 痰が絡んでいるのもそのまま、瞳孔を開いたように真っ黒い瞳で私を見て、よくわからない事を聞いてくるから。


 理由は、それだけでもない。


 夢で、その足音が部屋に入り込み、寝ている私の枕元まで来たことがあった。


 来ないで、来ないで。


 何かに見下され、動かない身体で、出ない声でそう叫んだ。

 怖かった。

 何だか分からない母が近づいて来るのが、母のような何かが、いや、母が、ただただ怖かった。


 通り過ぎた足音に息を吐く。

 不規則なリズムに感じる不気味さは、聞き慣れない音楽を何度も聴いてだんだん覚えるように、慣れる事は出来るのだろうか。


 そうしたら、寝る前にしている自室のつっかい棒を、止めることが出来るのだろうか。

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