第7話 1-7_調査行き詰まる「ベイクドモチョチョな」



 数日が経った。

「は~。今日もまた無益な調査の時間が始まるのか……」

 二人は放課後の時間を使って『方屋開口かたやかいこう』の捜索を続けた。しかし有益な情報はまったく得られていなかった。

 『かるら座』周辺で派手な格好がめずらしくない、というのが主な理由である。天狗や河童の目撃情報ばかり集まる始末だった。

「でも高校生で着物コート着てる子つって聞きこみしたらどっかで見つかると思ったんだけどな。そんなん同級生にいたら突っこむだろ、噂になるだろ。もしかして学校行ってねえ感じの人か?」

 つぐねが奇妙な人脈を使って、コンビニの防犯カメラをチェックしてもらったりしたが、それも空振りに終わっていた。

「コート以外の目印はありふれてるしな……実際に条件に合いそうな人物を見てもそれが『方屋開口かたやかいこうの少女』だとは断定できない」

 ヘチ子が歯切れの悪い口調で呟く。付き合いの長いつぐねは、その様子から何かを読み取ったらしい。

「何? なんかあんのか?」

「いや……」

 隠し事、というよりは考えを纏めている最中といった感じでヘチ子は言葉を濁した。


 実は、調査の間、ヘチ子の脳裏に何度となく浮かんだ姿があった。

 ゼリーを買った帰りにすれ違った、あの顔も知らない人物のことである。カラスめいた羽根と、不思議な香りを残して行った誰か。あの格好はいくらか『方屋開口の人物』と合致しないでもなかった。

 濃い色のマフラーと、ニット帽。たぶん若い女性。何かを抱きかかえる姿勢だったから、上着が和服コートだったかまでは不明。ゆったりした型の柔らかい素材だったとは思う。

 しかし、それだけに過ぎない。性別と防寒具が似ている人間なら街でいくらでもすれ違ったはず。なのにあのカラスの人物だけが気に掛かる。その理由はヘチ子自身にもまだ自覚できなかった。

 つぐねが話を変える。

「バカ息子が何か思い出したりとかねえのかな。そういうの久我ちゃんに連絡行くんだよな?」

 ちょうどヘチ子も情報の更新はないのか催促を送った所だった。

 すぐに久我から、アプリではなく電話で返事があった。いつものように小言が始まった。

「進捗はどうなってる。調査へ入るときと解散する前に連絡を入れろとあれほど――」

「何か新しい情報は?」

 それだけいってヘチ子は通話を切った。

 程なくして端末の資料データが更新された。

「久我ちゃん律儀~」

「新しい情報は無いようだ」

「しっかりしてよ久我ちゃん。でも、追加情報がねえ、つうことはよ、新しい冥宮事件は発生してねえってことだよな?」

「少なくとも事件にはなっていない。私たちの見回りでも冥宮の痕跡は見つかってないしな」

 実際、ここ数日というもの〈大きな冥宮〉の痕跡も〈小冥宮〉にも遭遇していなかった。

 よって二人もできる事がない。

「見回りの巡回も丁寧にやるようになってフレンズと遊ぶ時間もねえよ」とつぐね。彼はもう事件に飽きはじめている。

「私もかおるとの団らんを犠牲にしてるんだ。我慢しろ。お前は基本何もしていないしな」

「なあ。もう事件は起こらねえんじゃねえのか? 『方屋開口かたやかいこう』はもうこの街にいねぇんじゃねえかな? そもそも仮にこいつが冥宮を創ってたとしても、何回も出来るもんじゃなかったのかもよ?」

「そんな都合のいい想定をしても何の得もない、が……事件が途切れているのは確かに一つの事実だな」

 資料には、バカ息子以前にも〈宮隠し事件〉の存在が示唆されている。だがそれは皆同じ時期にかたまって起こっていた。犯人がいるとするならその人物はほとんど立て続けに〈宮隠し〉を行ったことになる。なお、別の被害者たちからも有益な情報は得られなかったらしい。

「そういえば被害者に共通点があった。全員、若い男でどいつも街の不良グループに属しているようだ」

 ヘチ子が思いついていう。

 それをつぐねが補強した。

「『色色カラーズのヤツらだよな。そうか、あいつらに聞いてみるのも手だな。あいつら相手なら力尽くが手っとり早いな」

「騒ぎになると面倒になる。一応交渉くらいはしておくべきだろう」

「交渉(暴力)」

「交渉だっていってるだろ」

「じゃあ行くか。ちょっとベイクドモチョチョでも買って食いながら行こうぜ」

「今川焼きだろ」

 そういう風に決まった。

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