第6話 示談の申し出、どう対応しよう

家主から示談の書類が届いた。

書類の送付に際して、手紙などは入っていなかった。

「〇月〇日までに示談しなければ8万円は払わない」という意味合いのものだった。

なんという上から目線。

まあ、裁判というのはそういうものか。わたしが訴状を書いたときも定型文を使わせてもらったが「40万円払え」だもんな。こっちこそ上から目線だよな。

上から目線というつもりはまったくないんだけれどもな。

40万円はぼったくりではなく、わたしがアパートに入居して必要とした経費のすべてだ。

この中には慰謝料は入っていない。


 *


害虫がたびたび部屋に出た。

バルサンを焚いて部屋を出て、次の日に片付けにまたこの部屋に来なければならなかった。階段にもいろいろな虫がいて、なぜこの建物だけこんなに虫がいるのか不思議だった。

部屋の扉を開けるのに恐怖した。通気口はドロドロで茶色い上に誇りが溜まっていた。

扉を開けると玄関から部屋にかけて死骸が落ちていた。

台所の扉や、物置の扉をひとつひとつ確認した。

頭の上から、背後から生きた害虫が出てくるのではないかと怯えた。

室内に害虫がいないことを確認しても、どこかに隠れていたり穴から侵入してくるのではないかと恐ろしかった。

実際にPCモニターの裏にいて絶叫したこともあった。

夜、自宅に戻り安全な部屋にいても、恐怖が蘇った。

3カ月の間不眠になった。


この恐怖体験は証明が難しい。

例えば病院に長く通っていれば通院費は請求できるかもしれないが

病院には行っていない。

それでも慰謝料を請求していいぐらいだとは思っている。


 *


アパートは10部屋あった。

3部屋は空き室となっていたので7部屋には住んでいる人がいる。

もしもの話だが、わたしがこの裁判で勝訴して、他の住人も同様に裁判を起こして同じような金額を請求した場合、40万円×7人で280万円になる。

不動産屋であれば、いくつものアパートを抱えているのでもっと大きな損害額になる。

これは想像なので、実際にそんなことにはならないだろうが、全員が怒りを持って訴えることになればの話だ。


不動産屋にも、家主にも、きちんと反省してもらい害虫対策をアパート全体に定期的にやるようにして欲しいし、この判例をもって全国の不動産業の人たちにも同様に賃貸物件は清潔に保ってもらいたい。

わたしのような体験をする人を出したくないし、わたしも二度とあんな部屋に関わりあいたくない。


示談の申し出への回答は、もちろんNOだ。


 *


示談を断るための手紙を書いて、きちんと断ったことを残しておく必要がある。

ネットやYouTubeで検索したが、示談を断るノウハウを書いたサイトはなかった。


そのため、簡易裁判所に電話をしてみたが「裁判の外での出来事にはお答えできない」とのことだった。そうだろうなと納得した。こういうときに弁護士さんというのはいるんだろうな。

次に消費生活センターに電話をしてみた。ここは退出を考え始めた頃に不動産の害虫トラブルの際はどうすればいいかを相談した窓口だ。こちらでも「裁判に入った後のことは、間違った答えをお伝えしてしまうと申し訳ないのでお答えできない」とのことだった。ダメ元だったが、やはり正しい回答だと思う。


今回は少額訴訟のため、弁護士は頼まずひとりで戦うことにしている。

示談の申し出についての対応は頼れる人はいない。そう腹を括って自分で考えてみることにした。


一番いいのは、示談の申し出を断る手紙を内容証明書で送付することだ。

次は、コピーを取ったうえで、書留などで送付する。

簡素でよければはがきで返事をする。100円ぐらいで済。


手間はかかるが、この際内容証明書で発送するのがいいだろう。

あとは、どうゆう書き方をすればいいかを調べたい。


 *


以下の動画や、弁護士会のサイトを確認してみた。


・【弁護士】佐藤大蔵チャンネル

https://www.youtube.com/@%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB%E4%BD%90%E8%97%A4%E5%A4%A7%E8%94%B5%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB

「弁護士が教える裁判で勝つために必要なこと」


・東京弁護士会

 https://www.toben.or.jp/


・埼玉弁護士会

 https://www.toben.or.jp/


佐藤大蔵さんという弁護士さんのチャンネルを聞きながらネットで示談書の例をようやく見つけることができた。ただ、これは企業間の賠償請求に関するもので、わたしのように個人が家主に対して書くものとはだいぶ内容が違った。


ただ、一般の商用文、商用メールの文面だったので、これを例として書いていいのではないかと思った。


示談申し出の期日までには1週間ほどあった。期日後になってもいいが、まずは1週間後を目指して、示談申し出のお断りについて手紙を書くことにした。


 *


つづく


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