第5話:番人

王域:アルデンテスに下克剣『スレイ』を求めて歩き始めた拓真。拓真は自身の傷つけば死ぬという運命を断ち切られたことを感じつつ王域を目指していた。




「ゲームの通りなら、王域の前に2つ結界があるはずだ。必ず下克剣を手に入れないとな。いつ神格が襲ってくるのかわからない。」(そういえば、ゲームには十二魔剣とか十二聖剣とかもあったよなぁ。)




十二魔剣や十二聖剣とは、決められた十二本の魔剣や聖剣を集めることでその剣が融合し、一本の全能剣となるという伝承だ。実際にそのようなことがあるのかは定かではないが、ゲーム内では本当にあるという噂もある。


そんなことを考えながら歩いているとついに1つ目の結界の場所に到着したのだった。




「やっと着いたぞ。さぁて?ここからどうしようかね。結界を突破するには番人を倒すのが手っ取り早いけど・・・。ぱっと見番人はいないか・・・?」




拓真が番人を探しているとスタスタと一人の青年が現れた。




「へぇ~?こんなところに珍しいお客さんだねぇ。何してるのかな。」


「誰だお前、お前には関係ないだろ。俺に用がないならとっとと失せろ。」


「お~怖い怖い。でもいいの?ここの通り方を知りたいんだろう?僕はここの通り方知ってるんだけどなぁ。」


「なに!?お前・・・何者だ・・・?」


「ははは。もっとよく僕の魔力の深淵を見なよ。そうすればわかるはずだよ?」




拓真は目を凝らして深淵を覗く。そして見えたのは・・・底知れぬ闇と濃霧。彼の言動と合わせて考え、拓真はその正体に迫る。




「お前は・・・まさか・・・!」


「やっと気づいたみたいだねぇ。僕の名前は深淵王:デルタスマイア。深淵をつかさどる王だ。僕の前にはどんなに強くまばゆい光もどんなに深い闇も意味は成さない。全ては僕の深淵に飲まれるだけさ。」


「なんで深淵王がここに・・・?」




拓真が恐る恐る尋ねると、デルタスマイアは快く答えてみせた。




「僕が番王を殺したからだね。それ以外にあり得ない。」


「番王を殺した・・・だと・・・?そんなことをしたら結界が・・・」


「番王の職分は僕が奪った。それが答えさ。」




王格や神格にはそれぞれ与えられた職分というものがある。冥王:アレスには死者や冥界の管理、運命王:ダイラゲートには運命を紡ぎ断ち切る、などだ。




「職分を奪っただと・・・?そんなことができるのは略奪剣だけじゃ・・・」


「それならここにあるよ?おいで、僕の盟友、略奪剣『グレイフォース』。」




そう唱えた瞬間、デルタスマイアの手元にはまさしく略奪剣が携えられていた。




「手に入れるのに苦労したんだよねぇ、これ。でも君もすごい魔剣持ってるよね?例えば極滅剣・・・とかさ・・・?」


「・・・!?なんでわかった・・・?」


「そりゃあ君の深淵を覗いたからね。極滅剣の他にも秘匿剣と獣殺剣かな・・・?」


「あんたの前じゃ嘘はつけないか・・・。そうだ。その三振りだ。」


「そんなに持ってるなんてすごいねぇ。僕も頑張って集めてみようかなぁ、十二魔剣とか気になってるんだよね。」


「まさか王格まで十二魔剣に興味があるなんてな・・・。」


「それでさ、こんな王域に何の用があるのかな?」


「下克剣を手に入れるためだ。それ以外に興味はない。」


「へぇ~、下克剣ねぇ・・・。僕も興味はあったけど、やめといたほうがいいよ・・・?」


「何かやばいのか・・・?」


「あれは戦王:グリドスが守ってる。それに、君よりも前に入った先客がいる。それでも行くかい?」


「戦王だろうが先客だろうが関係ないな。俺が手に入れるだけだ。」


「ふ~ん?まぁ、頑張りなよ。応援してるよ、僕に匹敵するほど深い深淵の持ち主君。」


「ありがたい。」




拓真がそう言う前には既に結界とデルタスマイアの姿はなかった。


そして拓真はズカズカと王域に入っていくのだった・・・




それとほぼ同時刻。王域:アルデンテス、戦王の間にて・・・




「はぁぁぁ!!『ブライト・スマッシュ』!!」


「ふん、そんなものが我に効くと思ったか?人間よ。」




広いとも狭いとも言える戦王の間では、青年が放った極光の光線と戦王:グリドスの持つ下克剣がぶつかり合っていた。




「ちぃ・・・!ごふっ!さすがの強さだな・・・戦王・・・!」


「まだ動くか人間よ。死んでも知らぬぞ。」


「あいにく、背負ってるものがあるんでね。何も得られずには帰れないんだわ。」


「ほう?去らぬというならばその覚悟、受け取ろう。少し本気を出そうか。」


「そうしろよ。こっちもこれからが本番だからな。いでよ!我が剣!雷鳴剣『イルミナ』!」


「ほほう。雷鳴剣か。面白いものを持っているな。」




二人がそれぞれの剣を正眼に構える。その姿は高名な剣豪同士の戦いそのものだった。」




「行くぞ、人間・・・!」


「来い、戦王・・・!」




次の瞬間、グリドスが音を置き去りにするような凄まじい踏み込みを見せる。




「ちっ!早すぎる・・・!」(まずい・・・!受けきれねぇ!なら・・・!)


「逝くがいい。剣を求めし愚かな人間よ。」




誰もがこの青年は死んだ、そう思えるような絶望的な瞬間だった。しかし、その瞬間、予想だにしないことが起こる。


バァン!!ととんでもない轟音とともに戦王の間の扉が蹴破られたのだ。




「おうおうやってるねぇ!下克剣はまだ健在かな・・・?」


「うお・・・?誰だお前・・・?」


「なんだ貴様。・・・!?その剣は・・・!まさか極滅剣か・・・!」


「お前が先客だな?名前は?」


「エンゼストだ。お前は?」


「タクマだ。よろしくな。自己紹介は後だ、まずは一緒にこいつを倒すぞ。剣の事は後ででもいい。」


「お、おう・・・。」


「ふん、我の前には人間など無力。何人いようが同じこと。」


「そうかいそうかい。この極滅剣の前にはどんな理も無力だってこと、思い知らせてやるよ。エンゼスト、魔術は使えるか?あいにく俺は魔術は使えなくてな。」


「極大魔術は一つだけ使える、それ以外の魔術なら大体は使えるぞ。」


「それで十分だ。協力、してくれるか・・・?」


「わかった。お前を信じようか・・・!」




そして三人が再び向き合う。下克剣をめぐる戦いは、ここからが本番だったのだ・・・・


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