第25話 昨日の夜

9月28日の火曜日の朝、俺と木滝さんは、お互いの方を向かい合いながら正座をしていた。


「帰ります」


「ダメです」


「いえ、帰らせて頂きます」


「いえ、それはダメです」


「......」


「......」


まだ、泊まって一夜しか経っていないが、なぜこんなにも変な空気になっているのか━━━━━━━その答えは、数時間前に遡るとわかる。





9月27日、時刻は11:30を超えていた。


「ほら、真波ちゃん、もう寝る時間ですよ? 子供は早く寝ないと大きくなれないですよ?」


「いや、そのくらいの年齢の子供じゃないから。あとちゃん付けやめて」


ちょっと学校とのギャップ(?)はあるが、それはそれでなんだかいい。


「反抗期ですか......ダメねぇ」


「子供扱いやめい!!!」


「ふふ、わかったからほら、もう寝よ?」


そう言って木滝さんはベッドに入っていく。

そして、掛け布団を『持ち上げ早く入れ』という圧を放っている。


「木滝さん」


「何?」


「いや、ほんとに一緒のベッドで寝るの?」


「ダメなの?」


「ダメでしょ!?」


彼氏彼女の関係であっても、高校の内にそんなことしてる人いるのだろうか?

......いやいそうだけど。


「俺たち一応友達かそれ以下ですよ?」


「一応? 友達じゃないの?」


「あ〜......友達ですけど」


「じゃあいいじゃん」


「だからどこが!?」


全く聞く耳を持たない木滝さん。


それにしても、どうしてそんなに一緒のベッドで寝たいのだろうか?

......欲を言えば、木滝さんとこのまま寝たいという気持ちいいはある。

それは認める。

けど、なんか違う気もする。


「もう! ごちゃごちゃ言ってないでこっち来なさい!」


そう言って、布団から出てきた木滝さんに引きずられ、布団の中に強制的に入れられた。


「......木滝さん、その......少しスペース空けてもらえると......」


「zzz......」


「え? 寝たフリ?」


「zzz......」


......どうやらもう寝てしまったらしい。

早過ぎない?


俺は、ベッドに横になりながら、ココ最近起きたことを振り返る。


文化祭の有志として、木滝さんにピアノの練習に付き合うという約束(自業自得かつ結構強制的に)をして、間宮さんの八葉矢に対しての恋愛相談的なのをして、風邪をひいて、急にじいちゃんが来て、そこに木滝さんもいて、ファンクラブと揉めたらまたすぐに......


小学一年生から木滝さんと出会うまで、ずっと平凡な生活を送っていたが、今の問題だらけの生活も悪くないと思った。


一人で最近のことを振り返っていると、俺の体に木滝さんの腕が回された。


「え!? ちょ......木滝さん!?」


「......」


「そういえば、もう寝てるのか」


そう一人で納得した途端、地獄は訪れた。


違和感を感じたのは、そんなにあとの事じゃなかった。


木滝さんの腕の力がだんだん強くなっている気がしたのだ。

それも、結構強めに。


「ちょ......痛い痛い」


そんな声も木滝さんには届かず、おそらく寝返りだろうが、それに俺も巻き添えを食らった。


その後は、だんだん力が強くなっていく腕に抵抗したり、投げ飛ばされたり、蹴られたろ、殴られたりと色々痛い思いをした。


要するに、超が着くほど寝相が悪かったのだ。





「ということで、帰ります」


「ダメです、そのことはごめんなさい。でも、まだ帰らせません」


「じゃあせめて、寝るところは別々にしてくれ」


「......それも......ダメ」


「なんで!!!?」


その後、学校に行くまでの間、俺と木滝さんは話し合い続け、結局、寝るところは別々という条件で、継続することになった。

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