第17話 小さな冷戦3

ついに、あまり来て欲しくなかった昼休みの時間が来てしまった。

こんなにも来て欲しくなかった昼休みはいつぶりか......


人が少なくなった教室で、1人声を出さずに嘆いていると、すぐにでも突入するために教室を出ようとする様子の木滝さんが、俺の前にやってきた。


「真波くん、さっさと行って、さっさとファンクラブの人を言い負かして、全員に土下座させに行こ?」


いつもの木滝さんはどこ行った、そう思うような発言をする木滝さん。


巻き添えみたいな形で、ファンクラブに喧嘩を売られたのだから、怒るのは当然みたいなものだと思っていたが、思っていた以上に怒っているのが分かる。


だが、俺の方は......行きたくない。


「あ、そういえば今日英検1級のテストが午後からあるんだったぁ」


そう言って逃げようとするも━━━━━━


「逃がさないよ?」


木滝さんはそう言い、俺の襟を力強く掴んで来る。


ファンクラブと木滝さんから、逃げることはできないことを悟った俺は、木滝さんについて行くしか出来ないのだった。





教室からしばらく歩くこと4分ほど、俺たちは、ファンクラブの本拠地であろう化学室の前にいた。


中の様子は、窓ガラスが透ない仕組みになっているため見ることが出来ないが、人影が複数あるのは見えるので誰かがいることは間違いない。


「心の準備はいい? 開けるよ?」


俺にそう聞きながらドアを開ける木滝さん。


せめて返事をしてから開けて欲しかったが......まぁ、仕方がない。

木滝さんが入っていった後に、俺は意を決して化学室に入った━━━━━━━のだが。


中の様子を一言で表すならば、カオスと言うべきだろう。


意を決して中に入った化学室の先に広がっていた光景は、軽く取っ組み合っている女子たち、言い争っている女子たち、そして、その様子を少し呆れ気味に見ている間宮さんと少人数の女子たち。


木滝さんの方を見ると......目が死んでた。


ひとまず木滝さんは置いといて、俺は一部始終を見ていたかもしれない間宮さんに、何があったのかを聞くことにした。


「これ、どうなってるの......?」


「いや、そのぉ、なんというか......ついさっきの話になるんだけど━━━━━━」





私、間宮優香は、今朝登校した時に下駄箱に入っていた、宣戦布告と言ってもいいような内容の紙について話を聞くために、送り主であろう龍希のファンクラブがいるはずの化学室に行くことにしていた。


私は無言で化学室のドアを開けた。


ドアを開けた先には、昨日よりは数が少ないが、ファンクラブの人たちであろう人物がいた。


「あぁ、どうもどうも、優香ちゃんいらっしゃい。もしかして、手紙についてのことかな?」


私の持っていた紙を指さしながら......誰だっけ?

多分河野さんがそう言った。


「そうだけど、何? この紙、雪や真波にも入れてたりしてないよね?」


「それはどうかなぁ?」


そう言ってうすら笑いを浮かべる河野さん。

(多分)


ちょっとムカつく。

そう思ってた私は、何か言おうとして口を開こうとした時だった。


「ファンクラブに入るの拒否っただけで喧嘩売りまくるのって、超ダサくなぁい?」


声がした方を見てみると、昨日はいなかったであろう女子が、周りにいる人に聞こえるようにわざと大声でそう言った。


「は? 何あんた、何もしてない人がそんな偉そうに言わないでくれる?」


「ただ私の意見言っただけですけどぉ?」


なんか、嫌な予感が......


私がそう思っていると、ファンクラブ内のグループでもあったのだろう、どんどんと対立が激しくなったり、新しく言い合いが起きたりしている。


だんだんと喧嘩が激しくなっていく中、完全に置いていかれた私は、ただただその喧嘩を見ることしか出来なかった。





「━━━━━━━てな感じかな」


「なるほど.....? でいいのか?」


昨日、間宮さんが「妬み合っている組織」的なことを言っていたが、どうやらそれは合っていたらしい。


ただ、この喧嘩を止めなければ、いずれ危険なところまで行きそうだ。


何か止められる方法がないか、そう思い、考えていたその時、化学室のドアが勢いよく開いた。


ドアから入ってくる人物は、一番予想外な人物であり、一番この場を収めることが出来るであろう人物、龍希だった。

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