第9話 金曜日のお粥

金曜日。


俺はまだ風邪気味なので学校を休むことになった。

一人暮らしでは、風邪などの病気になった時が相当きつい。

誰も助けてくれる人がいないし、洗濯や掃除、自分の朝昼夜のご飯を自力で作らなければならないからだ。


だけど、今日はというと━━━━━━━


「真波くん、お粥できたよ」


そう言って、家にあったかどうか全く覚えていないどデカい鍋に入ったお粥を、俺の所まで運んでくる人がいた。


......おかしい、夢だろ絶対。


今の時刻は午前9時をちょっと過ぎた辺り。

今は学校の時間のはずだ。

じゃあなんで......木滝さんがここにいるのか。


「あのぉ......木滝さん?」


「ん? どうしたの? それよりほら、お粥が冷めちゃうから」


「いやいやいや! なんで木滝さんがここにいるんですか!?」


試しにちょっと頬をつねってみる。


......痛い。痛いだけだ。

夢じゃないのは分かった。

じゃあ何? この状況。


「ふふ、夢だと思ってるでしょ」


頬をつねる俺の様子を見て、おかしそうに笑いながら言う木滝さん。


「いや、だって普通なら今は学校の時間だし......」


俺がそう言った。


「私が真波くんに風邪をひかせちゃったんだもん。治るまでは面倒見なきゃじゃん?」


木滝さんは、そう言って俺の口にお粥入りスプーンを強引に入れようとする。


「いや、自分で食べれるから......」


「いや、ダメです」


「ほんとに大丈夫だから。強引に食べさせようとするとやけどするかもだし」


「ダメ」


「......」


「はい、あーん」


何故か食べさせようとしてくる木滝さんの意志は謎に固く、しょうがないので俺は差し出されたスプーンに入ったお粥を食べた。


「......どう? 美味しい?」


「......美味しい......けど、恥ずかしい」


「ふふ、ならよかった」


そう言って、木滝さんは立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。


俺は木滝さんが急に退出したのを不思議に思うのと同時に、木滝さんが閉めたドアを少しの間、無意識に見つめていたことに気がついた。





(どうしようどうしようどうしよう!!!?)


真波くんの部屋を出たあと、私はすぐに洗面所の方へ行った。


とても恥ずかしかった。

初めて誰かにご飯を食べさせた。

その事実が、まるで真波くんの風邪がうつり、熱が出ているかのように、鏡の向こうにいる私の顔を真っ赤にしていた。


いや、恥ずかしいというより、どちらかと言うと......


先程までの記憶が蘇る。

困惑していた時の真波くんの顔、私が真波くんにお粥を食べさせた時の真波くんの顔、その後の真波くんの反応とその顔......


先程まで、他にまだ何かあったはずなのに、他のことを思い出そうとしても、真っ先に浮かんでくるのは、真波くんの顔。

そして、その他は思い出せない。


なぜ真波くんの顔しか思い出すことが出来ないのか、自分が本当はどうしたいのか、自分でも整理できない自身の状態に、私は前とは少し違うけど、頭がおかしくなりそうだった。

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