第8話 夢と、風邪と、美少女と2

「............」


「............」


外で話すのも木滝さんに悪いし、俺の風邪もあるということで、初めて女子を家の中に入ってもらったのだが......気まずすぎる。


木滝さんが俺の家を知っているわけが無いので、唯一俺の家を知っている龍希が、俺の家の場所を木滝さんに教えたのだろうが、そうならなぜ、木滝さんは龍希に俺の家の場所を聞いたのか。


そんな疑問を頭の中で整理しようとしたところ、木滝さんが話し出した。


「風邪......火曜日から休んでたけど、月曜日の雨のせい?」


気まずい沈黙を破った木滝さんだが、その声は、責任を感じていることがすぐわかるほど、いつもよりも暗い声だった。


「......いや、ただ体調管理が全然出来てなかっただけだよ」


俺は嘘をついた。

そうすれば、木滝さんの責任感は和らぐと思っていたから。

しかし━━━━━━


「嘘だよね? 真波くんが優しい人だって知ってる。あの日、私の事ずっと待ってたんだよね?」


「え? ああ、えっと......」


俺のついた嘘は、いとも簡単に見破られてしまった。


「そっか.......そうだよね......」


嘘を見破られた際に出た動揺で、木滝さんは察したのか、先程の調子でそう呟いた。


「いや、気にしなくて大丈夫だよ。風邪は引いたけど、別に死ぬほどのことじゃ━━━━━━」


「違うの!!!」


俺の言葉を遮り、木滝さんは大きな声でそう言った。

木滝さんの表情は、俯いき、前髪が邪魔をしてよく見えないが、1つ......2つと涙がこぼれ落ちていた。


どうしてそんなに思い詰めているのか、困惑している俺に向かって、木滝さんは続けていく。


「私が全部悪いの......優香ちゃんが真波くんのこと......好きだって知らないで......自分のためだけに......ピアノの練習って理由で、優香ちゃんから真波くんを奪って......それで、それに気づいたら......罪悪感で......真波くんを......自分から捨てて......それで、真波くんに風邪を引かせて......」


「......ん?」


間宮さんが? 俺を?? 好き???

間宮さんが好きなのは龍希のはずじゃ......?


「私、屋上での会話......聞こえちゃったの......真波くんに告白する......優香ちゃんの会話......」


「......んん??」


間宮さんが? 俺に?? 告白???


「ごめんね、真波くん。もうこれ以上付き合わなくて......いいから」


そう言って木滝さんは、立ち上がって家を出ていこうとする。


会話の内容から、木滝さんが何か勘違いをしているのは分かった。

だから、このまま行かせてはいけないと思った。


お互い、何も悪いことはしていないのに、無意味に傷つく必要なんてないのだから。


「待って、木滝さん!!!」


「......っ! 離して!!!」


出ていこうとする木滝さんの腕を掴んだ俺。

木滝さんは、その手を振りほどこうとする。

だけど、俺はその手を離してはいけない。


「誤解だよ! 間宮さんが俺に恋愛感情を持ってるとか、告白したとか、そういうの全部誤解だよ!」


「......え?」


振りほどこうと、動いていた木滝さんの動きが止まった。


「間宮さんが好きなのは龍希だよ。屋上で何を聞いたのかは分からないけど、あれは龍希に告白したいから協力してっていう、そんな感じの話なんだよ。だから、木滝さんが罪悪感を背負う必要なんて無い! 大丈夫だから」


俺が話終えると、木滝さんは泣きながら━━━━━━━


「よかった......」


━━━━━━━と、誰にも聞こえないような声量でそう呟いた。

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