第10話 最強魔王、戦う
連合軍二十万が進軍している。
対するこちらの軍勢は五十万という圧倒的な数だった。
負けるわけがない戦いだ。
しかし、今回の戦いで俺が直接出向くつもりはない。
というのも、あの二十万は囮であり、本命は城にいる俺だと情報が入ったのだ。
いつも俺が城で勇者を待ち受けているとは限らないだろうに、よくもそんな作戦を思いついたものである。
まあ、向こうがその気なら魔王として受けて立つのがマナーだ。
俺は城の大広間で待つことにした。
しかし、これが俺を城に留めておくための作戦だったら面白いな。
五十万の魔物が負けることはないだろうが、こっちの世界にもそれなりに強い奴がいることを俺はこの半年で学んだ。
だから油断はしない。
まだ女相手だと戦いになることの方が稀だが、俺は死なないので何とかなるはずさ。
「……来たか」
「また会ったな、魔王!!」
「ん? どこかで会ったか?」
攻めてきたのは一人の青年だった。
どこかで見たような気はするのだが、いまいち思い出せない。
「マリーを返してもらうぞ!!」
そう言って剣を抜き、構える青年。
マリー? ああ、たしかマリアリッテの偽名だったか。
あ、思い出したぞ!!
この男、たしかマリアリッテが「兄さん」と呼んでいた青年だ。
まさか半年前のリベンジに来たのだろうか。
「うおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
「む」
俺は少し驚いた。
半年前と比べて格段に青年の剣を振るう速度が上がっている。
構えも悪くないし、体格もがっちりしていた。
この半年でよほど鍛えたのだろう。しかし、俺には届かない。
青年の腹に一撃を叩き込む。
「ふんっ!!」
「ぐっ、負けるかぁ!! ――聖剣解放!!」
「む!?」
次の瞬間だった。
青年の振るっていた剣が光り輝いて、その形を変える。
すっげー!! 変形機能があるのか!!
いや、そうじゃない。それよりも問題はあの剣が放っている光だ。
俺の力が減衰している。
今では魔法の威力も本来のものから数段は落ちてしまうだろう。
以前、女ばかりの騎士たちを相手取った時に食らった結界魔術なるものと酷似している。
「どうだ、苦しいか!?」
「いや、そこまでではないな。少し身体怠いくらいだ」
「強がりを!! この聖剣はドワーフの神匠たちが一ヶ月かけて打ち鍛え続けたオリハルコンの剣!! お前を倒すとか剣だ!!」
「強がりではないが……オリハルコンか」
その存在は知っている。
たしか地上では伝説的な金属で、それが使われている武器は不思議な力を宿すと言う。
魔界だとオリハルコンよりヤバイ金属は沢山あるので気にしていなかったが、実際に目の当たりにすると凄いな。
「食らえ、ライトニングブラスト!!」
「うお!?」
青年が剣を振るった瞬間。
空から城に巨大な雷が走り抜け、天井を貫通。俺に雷が当たった。
雷は初めて食らったので、結構痛い。
しかし、問題は俺への直接的なダメージではなかった。
天井を貫通してきた雷が床にも当たり、足下が崩れて落下する。
これは青年も想定外だったのか、一緒に落下してしまう。
「くっ、魔王ぉ!!」
「空中でも斬りかかってくるか!!」
「マリーを!! 返せ!!」
聖剣の威力には目を見張るものがあるが、使い手が未熟だ。
怒りに任せて剣を振るっている。
ならばこちらも対処がしやすい、そう思ったのだが、俺はあることに気付いて反撃の手を止めた。
床が崩れて落ちた先は――地下牢だった。
ここにはマリアリッテがいるため、下手に暴れたら巻き込まれて死んでしまう。
マリアリッテを探して辺りを見回すと、瓦礫の隙間に挟まれて身動きが取れないながらも生きているマリアリッテを発見した。
場所を移動しないとまずいな。
「青年、ここは少し――」
「はあああああああああああああああああああああっ!!!!」
場所を変えようと提案しても、青年は聞く耳を持たない。
救出対象がいることに気付いてないのかよ!!
などと心の中でツッコミを入れていると、青年は躊躇わず同じように雷を放ってきた。
これは本当にまずい。
俺はマリアリッテに落ちてくる雷が当たらないよう、咄嗟に庇った。
「うっ、誰? 兄さん……?」
「悪いな、魔王さんだ」
「あ……え、バルディンさん……?」
この半年間、マリアリッテには色々と世話になったからな。
おっぱいの克服方法を始め、アルメナやクリューネには言えないような悩み事を相談したこともあった。
本当に友人と言っても過言ではない相手だ。
万が一にでも死なせたくないし、怪我もさせたくはない。
「む、この雷は……」
「ようやく気付いたようだな、魔王!! この雷は少しずつお前から力を奪う!! そして、更に強大な雷を放てるようになるんだ!!」
何それ凄い。
いや、というかお前は射線上にマリアリッテがいることに気付かんかい!!
多分俺でマリアリッテが隠れて見えないんだろうけどさ!!
「ぐっ、これ少しずつ痛くなるな……」
「あ、バ、バルディンさん!? 大丈夫ですか!?」
「おい、マリアリッテ。俺より兄の方を心配しろ。お前を助けに来たんだぞ、あれ」
「あ、いや、でも……」
何故かしどろもどろするマリアリッテ。
「おっ、ちょ、本格的に痛くなってきたから、どこかに隠れていてくれないか?」
「あ、わ、私は……私は……」
すると、何を血迷ったのか。
「や、やめて、兄さん!!」
「え?」
「ん?」
マリアリッテは青年に攻撃をやめさせた。
その声に気付いた青年は慌てて雷による攻撃を止めて剣を下ろす。
「マ、マリー!! 無事だったのか!!」
「……兄さん。ごめんなさい」
「な、何を謝っているんだ? お前は何も悪くない。むしろ、半年もお前を待たせてしまったオレが謝るべきだ、すまなかった」
「そうじゃ、ないの。私、ずっと兄さんに言ってなかった秘密があるの」
今なら青年を仕留められそうな気はするが、俺は空気の読める魔王なので黙っておく。
「私は、わたくしの本当の名前はマリアリッテ。十年以上前に亡くなったカーランド王国の第一王女なんです」
「え?」
「それで、わたくしが『白き勇者』。本当の予言では二つの太陽を供として生贄になり、魔界に魔王を封印する役割があるんです」
え、何その予言?
最初にマリアリッテから勇者が現れて俺は倒されるみたいなこと言ってたけど、それとは違う予言なのか?
「マリー? お前は、何を言ってるんだ?」
「お父様は本当の予言を知っていたから、私の髪が本当は白いから、私を白き勇者だと思ったんだと思う」
「な、マリー!? 髪が!?」
どういう仕組みか、マリアリッテの髪が真っ白に変わってしまった。
魔法、とは少し違う気がするな。
魔力の大元がマリアリッテではなく、彼女が首から下げているペンダントからだ。
髪の色を変える魔法のアイテムだろうか。
「贄って言うから、子供の頃から少し怖いものを想像していました。でも、多分、バルディンさんなら酷いことはしないかなって」
「な!? 奴は魔王なんだぞ!!」
「うーん、まあ、そうなんですけど。でも、バルディンさんって人並みの悩みとかあって、結構かわいい人なんですよ?」
おいコラ。イメージが崩れるようなことを言うんじゃない。
「だから、わたくしのことはもう心配しないでください。今までありがとうございました、兄さん」
「ぐっ、マ、マリー、何を……」
「ちょっとだけ眠くなる神聖術です。大丈夫ですよ、兄さんが目覚めた頃には、私が全てを終わらせているので」
青年が崩れ落ち、静かに寝息を立て始める。
しばらくしてマリアリッテは俺の方に向かってきた。
「バルディンさん、お願いがあります」
「な、なんだ?」
「私を魔界に連れて行ってくれませんか?」
「……ふぁ?」
俺はちょっと間の抜けた声が出た。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「次回、最終話」
バル「本当に短い……」
「青年強くなってて草」「イメージ気にしてんの笑う」「短い」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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