第7話 三ヶ国連合軍、会議する




 滅亡してしまったカーランド王国は、三つの国に囲まれている。


 古くからカーランド王国と友好的な関係を築いてきたハイデン王国、カーランドから独立したレイズ公国。


 そして、カーランド、ハイデン、レイズの全てと敵対しているバルザック帝国だ。


 今、その三つの国の王が会談していた。



「三国会議を始める」


「何故貴様が取り仕切る、ハイデンのババア」



 会議は険悪なムードで始まった。


 バルザックの皇帝、樽のような体型をしたドワーフのデーボンがいきなりハイデンの女王に喧嘩を売る。


 喧嘩を売られたハイデンの女王、カプラは決して老婆ではない。

 むしろすれ違えば万人が振り向くような見目麗しい絶世の美女である。


 しかし、その年齢は五百を越えていた。


 カプラはエルフの先祖返りであり、三百年にも及ぶ統治を行ってきた王なのだ。


 だからデーボンの暴言も平然と流す。



「まだ妾は五百歳じゃ、バルザックの髭樽男」


「誰が樽じゃ!! ぶち殺すぞババア!!」


「その髭引っこ抜いて燃やすぞ、ダボカス」



 流す……流さずに売られた喧嘩を買っていた。


 慌ててレイズ公国の公王、痩せこけて眼鏡をかけた風貌のジュペルが仲裁に入る。



「お、お二人とも落ち着きましょうぞ。ここで我らが争っては魔王の思う壺です」


「「チッ」」


「えー、では。お二人のどちらかが話を進めようとすると喧嘩に発展しかねないので、ここは私が進行させてもらいます」



 ジュペルの意見には同意なのか、デーボンとカプラは頷いた。



「まずは情報の再確認です。およそ一ヶ月と半月前、カーランドの『大穴』から大量の魔物が出現し、かの国を一晩で滅ぼしました。王族は無論、貴族や平民に至るまで、見逃された一部を除き、殺されました。未曾有の大虐殺です」


「そして、レイズの小僧――失礼、ジュペル公王の発案で連合軍を組織した。本当は嫌じゃが、ドワーフ共が治める帝国も含めてな」


「儂とて老害エルフババアが支配する国を助けるような真似はしたくないわい。ジュペルの坊主が言うから仕方なくじゃ」


「あ゛?」


「お゛ん?」



 いつにも増して険悪なデーボンとカプラ。


 その理由を分かってはいるが、一向に進まないのでジュペルは強引に会議を進める。



「連合軍は十万の軍勢を以って魔物、それから魔物を率いている魔王の討伐に乗り出しました。しかし、その結果は――」


「全滅、じゃな」


「はい。生き残ったのはハイデンの大魔術師クレナ様と我がレイズの乙女騎士団の一部のみです。バルザックの七英雄に至っては……」


「皆まで言うな、ジュペルの坊主。儂は気にしておらん」



 そう、カーランドに蔓延る魔物を討伐しに向かった連合軍は、英雄と呼ばれる者たちを含めて全滅した。


 上空から降り注いだ炎の雨によって。



「……今回、話し合いたいのは今後の動きについてです。我々は魔王軍を侮っていた。十万という軍勢をけしかけて魔物の一匹も倒せず全滅するとは思わなかった。ああ、いえ、正確には下っ端と思わしき魔族を一人倒したそうですが、強さからして本当に末端なのでしょうね」


「ふむ。レイズの乙女騎士団が倒したと聞いたが、そこまで弱いなら捕虜にすればよかっただろうに」


「ええと、はい。それは私も思いましたが、胸を揉まれて感情的になり、うっかり殺してしまったと」



 ジュペルは気まずそうに言った。



「して、その後すぐ大魔術を使った魔術師を探したそうだな?」


「ええ。しかし、見つからなかった。あれほどの大魔術を撃って疲労しないはずがない。そう思って生き残りの部隊で周辺を捜索しましたが、それらしい人物は見つからず……」


「また同じように攻めては二の舞になるな」


「はい。皆さんはどうお考えですか? このまま戦うか、それとも魔王に講和を申し出るか」


「無理であろうな。儂らは最初の警告を蹴ってしまった」



 今から一ヶ月前の出来事だった。


 事態を察知した周辺諸国が動こうとしていた矢先の事。


 やたらと露出度の高い衣装をまとった見目麗しいメイドがカーランド人と思わしき青年を抱えて辺境の都市に現れ、こう言った。



『我が主は慈悲深い御方です。お前たち人間が降伏するのであれば、毎年奴隷を献上することで多少の自治を認めると仰せです』



 誰もが憤った。


 魔王の正体や実力は分からないが、侵略者に何もせず降伏するなど有り得ない。


 誰もがそう思って兵士たちの士気は向上した。


 中には件のメイドを捕えて性奴隷にしようなどという下世話な輩まで湧いたほどだった。


 しかし、結果は連合軍の全滅。


 最初の降伏勧告を素直に受け入れていれば、兵士たちは死なず、最低限の自治権を守ることもできた。



「正直、私は恐ろしい。連合軍を消滅させた大魔術が町に向けて使われれば、対処できない。確実に滅ぼされる」


「……で、あろうな。辛うじて無事だったクレナに聞いたが、あの大魔術は神の領域にあるそうじゃ。そう連発できるとは思えないが、短時間で二度も撃ってきた事実からしてそれはない」


「……勝てんな」


「ああ、勝てぬ。しかし、予言が確かならば魔王は魔界へ追いやられると言う。ああ、民衆に向けて改編したものではないぞ」



 地上には一つの予言がある。


 それは『地上を飲み込まんとする悪しき王とその軍勢、白き勇者によって討たれん』という内容のもの。


 しかし、一般的に知られているそれは権力者が改編して民衆に広めたものだった。



「『二つの太陽を供とするカーランドの白き勇者の贄によって大穴の底へと封印される』じゃったな」


「そうじゃ。各国の王しか知らぬ本当の予言。贄などという時代錯誤も甚だしい代物をよく思わなかったお主らの祖先に感謝じゃな。その予言が地上に広まっていたら、魔女狩りのように聖女探しが行われたじゃろう」


「予言……」



 それこそが本当の予言。


 数百年前のある国の預言者が遺した、人類の滅亡と再興の予言。



「当てに、なるのですか?」


「なる。妾はその預言者のことを知っておるが、妾の知る限りではその者が予言を外したことなど一度もない」


「で、その聖女はいつ現れるんじゃ、ババア? というかカーランドはごく僅かな国民を残して全滅したんじゃぞ?」


「……妾は知らん」


「ぶち殺すぞ、老害ババア」


「知らんもんは知らんのじゃ!! 文句はあのハナタレ預言者に言えい!!」


(伝説の預言者なのに、ハナタレだったのか……)



 会議は踊る、されど進まず。


 ひとまず様子見ということにはなったが、魔王が待ってくれる保証などない。


 一方その頃、件の魔王は――













「くっ!! ダメだ、何度やってもおっぱいを揉んでしまう!!」


「……困ったことになりましたね、バルディン様」



 膝から崩れ落ちてどうでもよさそうなことで悩んでいた。



 




―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「エルフとドワーフが仲悪い、みたいなイメージがあるんだけど、どこが初出なのだろうか……」


バル「えぇ、分かんない……」



「老害ババアは草」「落ちで笑う」「たしかにエルフとドワーフが仲悪いイメージある」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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