第2話 最強魔王、前世を思い出す





 その日、俺は魔界と地上を繋ぐ『果ての大穴』から出て最も近い場所にあった国を一つ滅ぼした。


 たった一晩の出来事である。



「バルディン様」


「……アルメナか。何かあったか?」


「ご報告です。カーランド王国の王都を完全に制圧致しました。現在はご命令通り、バルディン様の名のもとに民衆を皆殺しにしている真っ最中だそうです」


「ふむ。不意打ちとは言え、地上の侵略にはもう少し苦労すると思っていたのだが……。肩透かしを食らった気分だな」



 地上。


 それは極寒の魔界と違って四季があり、太陽がある美しい世界だった。


 この地上を魔物の楽園に変える。


 先に暮らしていた人間たちには気の毒だが、俺は魔王なのだ。

 欲しいものは力ずくで奪い、邪魔する者は駆逐する。


 これは戦争なのだ。


 俺はカーランド王国の城、その大広間に設置してあった王座にどっかりと腰かける。


 そして、奪ったワインをらっぱ飲みした。



「バルディン様、もう一つご報告があります」


「なんだ?」


「この国の騎士団長がバルディン様に一騎打ちを申し出ているそうです」



 俺は一騎討ちと聞いて、目を瞬かせた。



「くっくっくっ、はっはっはっはっ!!!! 良いだろう!! 近頃は誰も俺に逆らわなくなったからな、退屈だったのだ。その者を連れて来い」


「はっ」



 俺が命令すると、アルメナは大広間にカーランド王国の騎士団長を連れて戻ってきた。


 美しい女だった。


 金色の髪を肩の辺りで切り揃えており、鋭い目で俺を睨んでいる。


 アルメナの話ではカーランド王国の騎士団長らしいが、騎士の証である鎧は着ておらず、ボロボロの布をまとっていた。


 にも関わらず、凛々しいという言葉が似合いそうな雰囲気の女だった。

 

 俺は思わず感嘆してしまう。



「たしかに騎士らしい風格があるな」


「貴様が、貴様が魔王か!!」


「ふむ。アルメナ、この女に剣を与えてやれ」



 そう言うと、アルメナは空間魔法で作り出した異空間から一振りの剣を取り出し、女騎士に手渡した。



「ハンデのつもりか?」


「面白いことを言う。武器も無しに俺を倒せると思っていたのか?」



 女騎士は悔しそうな表情で唇を噛み、剣を手にとって俺に向かってきた。


 鋭い斬撃だ。相当な訓練をしてきたのだろう。


 しかし、ただ怒りに任せて振るう刃ではこの魔王を討ち取ることはできない。



「くっ、この!! 何故当たらん!!」



 俺は女騎士の振るう剣をひらりと躱していた。


 別に俺は不老不死なので真っ二つに斬られても平気なのだが、痛いものは痛い。


 わざわざ当たってやる必要もないだろう。


 そうこうして十数分が経ち、女騎士は肩で息をしていた。


 捕まる前は魔王軍の兵士たちと死闘を繰り広げていただろうし、疲労がピークを迎えたのかも知れない。



「くっ!! 国王陛下と、王女殿下の仇ぃ!!」


「……そろそろ終わらせるか」



 疲労と怒りで女騎士の剣技は精細さを欠き、上段から大振りで剣を振り下ろそうとした。


 まあ、俺と一騎打ちした勇者だ。


 名前を知るつもりはないが、その最期の死に様くらいは覚えておいてやろう。

 そう思いながら俺が手刀で女騎士の胴体を貫こうとした、その時。


 疲労が溜まっていたらしい女騎士は躓いて、俺の攻撃が届くよりも前に体当たりのような形でぶつかってきた。



「きゃっ!?」


「む」



 それは俺にとっても女騎士にとっても想定外の出来事だったのだろう。


 女騎士は自らの胸に俺の顔を埋める形で倒れてしまったのだ。

 その柔らかいものに包まれた次の瞬間、俺の中で何かが起こった。


 さっきは気にもしなかったが、女騎士の胸は――おっぱいはメロンのように大きくて柔らかいものだった。



「な、なん、だ、これは……」



 刹那、知らないようで知っている誰かの記憶が頭の中に流れ込む。


 それは俺の前世の、人間だった頃の記憶だ。


 同時にある一つの言葉が呪いのように俺の頭の中を反芻し、精神を蝕む。


 その言葉とは――



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 頭がおかしくなりそうだった。


 最強の魔王である俺の頭の中に余計な情報が入ってきたのだ。



(小さいおっぱいもいいけど、やっぱりおっぱいは大きくないと。でっかいおっぱいに挟まれて窒息死したい)


(バカ。おっぱいはおっぱいだ。ちっぱいもでかぱいも素晴らしい。おっぱいは素晴らしい)


(ちっぱいこそ至高!! ちっぱいこそ至高!! お前らもちっぱいこそ至高と言うのです!! でも大きいおっぱいもいいよね!!)


(あー、おっぱいに囲まれてぇなぁ。おっぱいハーレム作りてぇー)


(そもそもおっぱいとは母性の象徴であり、断じてエロいものではない。宗教画において女性の胸が描かれているのもまた慈愛の精神を表すものであって――)



 なんだ、この馬鹿みたいな会話は!!


 一人分の記憶なのに何人ものおっぱいソムリエが共存してやがる。



「ぐっ、うぅ」


「バルディン様!? 貴方、バルディン様に何を!!」


「え!? い、いや、私は何も……」



 それから俺はずっと声と戦った。


 正直、その後でアルメナや女騎士がどうなったのかはイマイチ覚えていない。


 おっぱいへの凄まじい情熱だけで俺の記憶を飲み込もうとする前世の記憶を抑え込むので必死だったのだ。


 その結果――



「でっかいおっぱい揉みたいなあ」



 前世の記憶と今の記憶が一つに混ざり合い、人格も変質。


 俺はおっぱい好きの魔王になってしまった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「一つ一つ書いてたらゲシュタルト崩壊するかと思った」


バ「正気か、お前?」



「こんなにおっぱいって書いてる小説これだけだろ」「前世がどんな人間か気になりすぎる」「作者がイカれてる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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