最強魔王は地上を征服中、でも美人勇者たちのおっぱいが凄すぎて戦いにならないんだが。

ナガワ ヒイロ

第1話 最強魔王、半年前を振り返る



 魔王。


 それは魔界を統べる王であり、全ての魔物たちを従える唯一の存在。


 俺の名前はバルディン。


 最強の魔王として魔界の頂点に君臨する絶対的支配者だ。


 しかし、俺にも弱点はある。



「くっ、まさか魔王バルディンがここまで強いとは……。連合軍の情報にはありませんでしたね」



 目の前の金髪碧眼の美女が額から血を流しながらキッと俺を睨む。


 あらゆる属性魔法の威力を減衰させる聖なる鋼で作られた純白の鎧は、見るも無惨なほどボロボロだった。


 まあ、その鎧を破壊したのは俺なんだが。



「殺しなさい。貴方を倒せない私に生きる価値はありません」


「安心しろ、お前は殺さない」


「……情けをかけるつもりですか? それとも拷問でもするつもりですか? 無駄なことです。私は例え何をされようと、決して屈しません」


「そんな酷いことをするつもりはない。俺がお前に要求するものは一つ。たった一つだ」


「たった、一つ?」



 俺はその美女の豊満なおっぱいを至って真剣な面持ちで見ながら一言。



「――ちょっとそのおっぱい、揉ませてくれない?」


「……は?」


「いや、ホントに揉むだけだから。それ以上のことは何もしないから。こう、下から持ち上げさせてもらえれば満足するから」



 俺は両手をわきわきさせながらお願いしてみた。


 すると、美女は困惑した表情から一転。怒りに満ちた顔で俺を睨み付けてきた。



「ふ、ふざけているのですか、魔王バルディン!!」


「至って真面目な話」


「真面目な話でも困ります!!」


「いや、戦ってる時からずっとぶるんぶるん揺れてるから気になってたんだ。お願い、少しだけ。先っちょだけでいいから」


「嫌に決まっているでしょう!! 誰が人類の敵である邪悪な魔王に胸を揉ませますか!!」


「よし、じゃあこうしよう。揉ませてくれたら一秒につき一日だけ人類への攻撃をやめるからさ。お願い、いや、お願いします!!」



 俺の弱点。


 それは襲いかかってきた勇者がうら若い女性だった場合にのみ発動する。


 そう、俺はおっぱいに弱いのだ。


 おっぱいが大きな女勇者を相手にすると下半身がどえらいことになり、その場から殆ど動けなくなってしまう。


 今日の女勇者は程よい大きさのおっぱいだったのでどうにか勝つことができたが……。


 相手によっては負けそうになることもある。


 まあ、そういう時は配下をけしかけて代わりに戦ってもらうけどね。


 おっと。卑怯と言うことなかれ。


 俺はただ綺麗なお姉さんのおっぱいや可愛い女の子のおっぱいを愛でるのが好きなだけの普通の紳士なのだ。


 野郎の勇者だったら躊躇いなくぶち殺せるのだが、女の子はダメ。

 その子のおっぱいの大きさとか形とか、柔らかさが気になって手も足も出なくなる。


 俺はそういう魔王なのだ。


 今回はそこまで強くない勇者だったので一人で対処できたがな。


 やっぱり強い女勇者が来た時のために魔王らしく単騎で迎え撃つ姿勢は改めた方がいいだろうか。



「くっくっくっ、どうする? ここでお前が頷けば俺は一秒につき一日人類への攻撃を取り止める。お前自身は捕虜という立場にはなるが、安全は保証するぞ。断るなら今日もどこかで誰かが沢山死ぬだろうなあ」


「ひ、卑怯者!! それに承諾したって胸を揉まれるなら安全ではないじゃありませんか!!」


「――たしかにッ!!」



 くっ、どう説得したらこの勇者はおっぱいを揉ませてくれるのだろうか。


 俺が必死に思考を巡らせていると、勇者は屈辱に満ちた表情で唇を噛みながら確かめるように問いかけてきた。



「ほ、本当に、私が胸を揉ませたら人類への攻撃をやめてくださるのですか?」


「っ、もちろん!! 俺は約束を違えない魔王だぞ!!」


「……分かり、ました……」


「お、おお!?」



 女勇者は鎧を脱ぎ、柔肌を晒した。


 ちょうど俺の手に収まるような大きさのおっぱいが「ぷるんっ♡」と弾む。


 うっひょー!!



「ぐへへへ、じゃあ遠慮なく――」



 俺が女勇者のおっぱいを全力で揉みに行こうとした、まさにその時。


 音もなく俺の背後に何者かが立った。



「何をしておられるのですか、バルディン様」


「ひょえっ!? ア、アルメナ!? どうしてここに!? お前は最前線に向かったはずじゃ!?」


「何やら胸騒ぎがしましたので。……要らぬ心配だったようですが」



 青みがかった銀色の長い髪と黄金色の瞳の女性だった。


 丈の短いスカートと黒のマイクロビキニをまとっており、ムチムチの太ももを包み込む黒のニーハイソックスとガーターベルトが素晴らしい。


 そして、おっぱいがめちゃくちゃ大きかった。


 それでいて腰はキュッと細く締まっており、お尻は肉感的なのだ。

 そのあまりにも美しい姿はまさに絶世の美女と言っても過言ではない。


 彼女の名前はアルメナ。


 俺の側近であり、メイドであり、魔王軍の幹部を務めている吸血鬼だ。


 アルメナは俺と鎧を脱いで肌を晒している女勇者を交互に見つめ、何かを察したように冷たい目で俺を睨む。



「なるほど。またいつもの悪い癖が出たのですね」


「い、いや、あの、アルメナさん。これには深い事情がありまして」


「敵である勇者を女だからと殺さず、服を脱がせて胸を揉む行為に深い事情があるとは欠片も思えませんが」


「す、すみませんっした!!」



 俺はその場でアルメナに土下座した。


 アルメナはすれ違えば魔物も人間も振り向くような絶世の美女だ。


 しかし、怒ると誰よりも怖い。


 だからこういう時はひたすら言い訳を並べて謝罪するのがベストなのだ。


 俺は捲し立てるように早口で言う。



「ご、ごめんて!! ちょっぴり魔が差したんだって!! 仕方ないじゃん!! 男ってのは大きいおっぱいが好きな生き物なんだから!! 俺は悪くない!! 悪いのは俺を誘惑してきたあのけしからん大きなおっぱいを持っている勇者だ!!」


「うぇ!? わ、私ですか!?」


「清々しいほどのクズっぷりですね。それでこそバルディン様です。ああ、そちらの勇者はお帰りいただいて結構ですよ。これからお説教なので」


「え? え? えっと、よろしいのでしょうか?」


「はい、どうぞ」



 アルメナの言葉に従って大広間から出て行ってしまう女勇者。


 ああっ、揉み損ねた!!



「魔王様」


「……うっす」


「最近の貴方はどうしてしまわれたのですか? かつてのような非情さや、冷酷さはどこに行ってしまったのですか?」



 俺は黙ってお説教が終わるのを待つ。



「魔界を統一し、魔物たちの楽園を築くために地上を征服すると宣言したのは偽りだったのですか?」


「いや、今でもちゃんとやる気はあります。ちょっと底無しの性欲が先走っちゃうだけです」


「……その底無しの性欲はどこから来たのですか。不老不死であるバルディン様には縁のないものでしょうに」


「それは……言っても信じてもらえないだろうし」



 俺には魔王軍の誰にも言えない秘密がある。


 それは、こことは別の平和な世界で育った人間の記憶を持っていることだ。


 いわゆる前世の記憶である。


 前世の俺はおっぱいが大好きな紳士で、その記憶を思い出してしまったが故に性欲が覚醒してしまったのだ。


 あれは半年前だったか。


 魔界を統一し、魔界と地上を繋ぐ『果ての大穴』から這い出て国を一つ滅ぼした時だった。


 俺は無謀にも挑んできた勇者と死闘を繰り広げ、危うく死にかけたことで前世の記憶を思い出したのである。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「おっぱいが嫌いな男はいない(名言)」


バル「間違いない」



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