4.あなたは魔女か、それとも人か
「お前、森の魔女だな!」
そんな鋭い声が響いたのは、魔女と呼ばれている少女との暮らしにもすっかり慣れてきた、とある日のことだった。
わたしは驚いて、声のした方を向く。そこには、大きな銃を持った男の人がいて、わたしは思わずひっと引き攣った悲鳴を漏らした。
少女はというと、武器を持った男の人にも怯むことなく、平然としていた。
男の人が、少女に向かって銃口を向ける。撃たれる、そう思うと足が震えた。
恐怖で動けないわたしとは正反対に、少女は冷静だった。
「トワ、逃げなさい」
少女は落ち着いた声でそう言うと、わたしを突き飛ばした。
その瞬間、だった。
ズダダダダ!と大きな音がした。それが、男の人が銃を撃った音なのだと認識したのは、わたしの目の前に、真白い少女が血まみれになって倒れ伏してからだった。
むせ返るような血の匂いが、した。
「やったか?」
男の人が大きな銃を降ろして、こちらに近づいてくる。男の人は地面に倒れ伏した少女をごろりと足で転がすと、ぐしゃりとその頭を踏みつけた。
「ハハハ!恐ろしい魔女だって聞いていたが、まさかこんな簡単にやられるなんてなあ!噂は所詮噂だったってことか!」
そう言いながら気持ち良さそうに笑う男の人は、気がついていない。
自分が踏みつけている少女の傷が、もう既に、完治し始めていることに。
そしてその少女が、自分を殺そうと、自身の獲物に手をかけていることに。
「舐められたものね」
ドン、と、先程に比べればひどく軽い音がした。少女が、男の人の脳天目掛けて、発砲した音だ。
どさり、と、今度は男の人が地面に倒れる番だった。少女は優美な仕草で起き上がると、冷ややかな目で、男の人を見下しながら、何発も、何発も、男の人目掛けて発砲した。
そうして、いくばくか時間が経った頃。雪に覆われた真白の地面が、真っ赤に染め上げられた頃。
少女は冷ややかな声で、言った。
「おまえごときに、ぼくが殺せるなんて思わないことね」
この時わたしは、目の前の少女を、怖い、と思った。
ああ、やっぱり。この人は、この女は、怖くて恐ろしい、噂と違いない魔女なのだと。そう思った。
少女がくるりと振り向く。
「さあ、トワ。帰りましょう」
少女がわたしに向かって、手を差し出した。その顔には、先程までとは違って、穏やかで優しい笑顔が浮かんでいた。
分からない。目の前のこの人のことが、分からない。
あなたの本当の顔は、一体どっちなのだろう。
冷ややかで冷酷な、まるで本当に魔女のようなあなた。
わたしに対して、まるで愛おしいものを見るような、穏やかな笑顔を向けるあなた。
目の前のこの人のことを知れば知るほど、この人のことが分からなくなるような気がする。
「……はい」
少しばかり逡巡してから、わたしは少女の手を取った。
その手はひんやりとしていて、冷たくて。それが彼女が人ではないからなのか、それとも、この森の凍てつくような寒さのせいなのか、わたしには判断がつかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます