「秘密」が口癖のセンパイ
ぽぽ
第1話
「秘密」
それが彼女の口癖だった。事あるごとにそう言っていた。何か疑問を投げると大体が「秘密」と返って来る。
「センパイ。何でそんな口調なんですか?」
「それは秘密だ、少年。私が君に明かせることは少ないんだよ」
「センパイ。服にシミがついてますよ。もしかして、またラーメン食べたんですか。すするの下手なのに」
「ひ……秘密、だ。昼に何食べたかなんて君には関係ないだろう」
「センパイって、意外とドジですよね。でもミステリをよく読んでる。その口調もそれに影響されたんですか?」
「少年、それは秘密だ。それと、人には詮索してほしくないところもある。そこのところを理解するように」
と、こんな会話が日常だった。センパイとの会話は意外に楽しいし、質問の答えとして秘密とよく言っているが、それでも言葉に現れないところで質問に答えてくれるから、センパイのことはよくわかる。
そんなセンパイだが、今日からはさらにキャラが濃くなってしまうかもしれない。
「センパイ……なんで幽霊になってるんですか」
「少年、それは秘密だ。ただ一つ言うのであれば恨みではないぞ」
そう、それは死んだはずなのに霊となって出てきているからだ。生前とまったく同じ姿だが、互いに触れることはできない。声は届くため会話はできる。
霊なので壁のすり抜けもでき、僕のプライベートはなくなりつつあった。
「センパイ……せめて家にいる時は帰ってくださいよ」
「ふふ……少年、それはできない相談だ。なぜなら少年と一緒にいると面白いからな」
「僕のことが好きなんですか?」
「……ひ、秘密……だ。ひ、人には恥という概念があってだな。言葉によってそれが引き出されることもあるのだ。こ、今後は、言葉に気を付けるように」
顔を赤らめながらセンパイは言った。やっぱりからかい甲斐がある。
「好きなんですね?」
なのでもっとからかってみることにした。
「だ、だからぁ!それは秘密だと言っただろう!それと、今さっき言った忠告をもう忘れたのかぁ!」
さっきよりも赤くなっているセンパイ。やっぱり可愛いと思う。
「センパイ、可愛いですね。耳まで赤くなってる。恥ずかしいんですか?」
「な……な、何を言っているんだ君は!そうだ、さっきから君の方ばっかり質問するな!しかも答えずらいことばかり。ならば私にも質問する権利があるだろう!?」
恥を紛らわすためか、センパイは早口で言った。
「いいですよ。なんですか?」
「なんで、君は私を殺したんだ?」
その質問を恥を紛らわすために使っているあたり、やはりセンパイはそのことを気にしていないのだろう。それだったら、よほどのことを言わない限り怒られないはずだ。言ってもいいだろう。
「センパイ、年を取ったら、きっとその口調じゃなくなるじゃないですか。だから、若い姿のままで取っておきたいなって。センパイは、ずっとそのキャラでいてほしいんですよ」
「な、なるほど……そうなのか。だとしたら、よかったな少年。私はきっと、もう年を取らないぞ」
「多分そうでしょうね。僕はその口調のセンパイが好きなので、これからもそれでお願いしますね」
無論、好きなのはその口調だけではないが。センパイのすべてが好きだ。
「ああ、分かってるぞ、少年。君は私が好きなんだな!」
「当たり前じゃないですか。ってか、センパイもそうでしょ?」
「な……だ、だからぁ…それは秘密だ。……あと、好きでいてくれてありがとうな。私の方から一つ、感謝するぞ」
幽霊なのに、生前とまるで変わらない。そんなセンパイが愛おしくて愛おしくてたまらない。僕は死ぬまで、いや死んでからもこのセンパイと一緒にいるだろうなと思った。
彼女の秘密は、僕にとっては秘密でもなんでもない。だって、僕は彼女のことが好きで、彼女も僕のことが好きだから。
「秘密」が口癖のセンパイ ぽぽ @popoinu
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