第34話 この地域では、奴らの計画を阻止する事ができた この先は・・・

今日になってチラシを見て出てきてくれる人も少しは居た。

けれど昨日と比べるとやっぱり少ない。

午前中いっぱいで二人を案内したのみて、空いている時間の方が多かった。

今日は妨害も入らなかったところを見ると奴らの側には、いよいよ人が少なくなってきたのかと思う。

これ以上誰かを倒して昨日のような事が起きるのは見たくないし、妨害が入らない事に心からホッとした。

これなら、出てきた人を店まで案内して事情を話すだけでいい。


問題は、チラシに気が付かないし出てこない人の事だった。

とにかく外まで出てきてもらわないと始まらない。

自分の意思で出てきた人は、店を探しているのかと声をかけるとむしろ喜んでくれるからやりやすいけど。

出てこない人を連れ出すのは難しかった。

突然訪ねて行っても、訪問販売か宗教の勧誘だと思われて怪しまれる。

もっともらしい事を言って出てきてもらわないといけないけれど、その内容をゆっくり考える時間もなかった。


「インターネットを使った詐欺被害が発生していて、そこにお名前が載っていたので・・・・」

「最近この近くでお店をオープンしたという、あなたのお知り合いの方からの紹介で、訪ねてみるようにと言われたもので・・・」

俺達は、出てきてもらうためならどんな嘘でも吐いた。

自分が詐欺師になったような気分だけど、気にしている余裕は無い。

しまいには「集団自決と見られる事件が今日起きた事はご存知でしょうか?その場に残されていた情報から、そちら様の個人情報が・・・」

という事まで言った。

だけどこれに関してはむしろ、はまるっきり嘘ではないとも言える。 

死んだ・・・と言うよりおそらく殺されたのは、奴らの下で働いていた人達で、その人達を殺したのと同じ奴らが行なっている実験。その実験のサンプルのリストに、個人情報が載っていたのだから。


サンプルに選ばれている人達は全員が一人暮らしで、AIとの会話に楽しみを見つけようというくらいだから、孤独を感じている人は多い。

それから考えると、話しかけられるのを嫌悪する感じではないと思うけれど。

やっぱり、知らない人間が突然訪ねて行けば怪しいと思われる確率は高いらしい。

それでも、若い人の方が比較的素直な傾向。

十代、二十代の担当だった人達は、昼くらいまでにリストに載っている全員を案内して仕事を終えてしまった。

俺達も、それからしばらくして最後の一人を何とか店まで案内出来た。

そこからは、他の人達を手伝いに行ったりして過ごした。

年齢が上の世代になるほど頑固な人とか疑り深い人は多いみたいで、担当した人達はかなり苦労している様子だった。

それでも夕方には、最後の一人を店に案内する事が出来た。

どんなに頑固な人でも、自分に危険が迫っているかもしれないと聞くと、さすがに無関心ではいられないらしい。

詐欺かもしれないと半分疑いつつも、一応聞いてみようという気にはなってくれる。


店まで行くのを躊躇う人には、その場である程度まで話した。

防犯カメラで見られているだろうし、会話の内容も盗聴器で聞かれているか録音されているかもしれないけれど。

ここまできて今更それを気にしてもいられない。

俺達が奴らの実験を邪魔している事が、奴らにバレるのは想定内。

今すでに、何者かが邪魔しているというところまでは知られているわけだし。

俺も亜里沙も追われている身で、外見の印象がかなり変わったとはいえ、俺達だとバレない保証は無い。

けれど不思議と、怖いという感情は湧いてこなかった。 

世間的には落ちるところまで落ちたわけだし、これ以上特に恐れるものも無いからかもしれない。


ありがたかったのは、妨害がほとんど入らなかった事だ。

しろねこ庵への案内を妨害されたら、こっちも応戦するしかない。

その結果が昨日のような事なら、それだけはもう勘弁してほしいと思う。

全ては奴らの側の出来事だと言っても、やっぱり気分のいいものでは無いし。

今日も、見張っている人や追ってくる人が、人数は昨日よりずっと少ないながら居るには居た。

けれど、本気で捕まえようとか倒そうとしてきているわけじゃなくて、どうも形だけのような感じだった。

捕まえようとしているフリ、追いかけているフリに見える。

最初から無理だろうと諦めているというのか・・・。


その間にも、街中で人が突然倒れて死んでしまうという現象は続いていて、新しいニュースとして入ってきていた。

奴らの側は、逃げ出す人がどんどん増えてきているということだと思う。

もしかしたら・・・逃げても消される事は分かっていて、それでも、働きが悪いと言われて残忍な殺され方をするよりマシだと思っているのかもしれない。

「奴らの側はどんどん力を失ってきていると思う」って若菜さんが言ってたけど。

なるほどその通りかと思えてくる。

自分より上の立場の存在に対して、恐れて従う人達がいるから成り立っているピラミッド型の組織。

上に行くほど、その人数は少ない。

日本全体でも世界全体でも同じなんだろうけど。

下の人達が皆んな逃げてしまったら、奴らはどうする事も出来ないはず。


この実験にしても、最初は楽しみから入らせてAIに依存させ、次は奴らの思い通りに誘導する段階まで持っていく試みだった。

その次にはうまく誘導してマイクロチップを体に埋めさせ、もっと直接的にコントロール出来るようにもっていく。

生殺与奪の権も奴らに握られた、命令通りに思考し行動する人間を量産する事が、奴らの最終目標。

働きが悪いと言っては人を次々に殺していっても、どんどん補充出来るように今回の実験を始めたのだと考えられる。


助け出した人達の中には、マイクロチップを体に埋める事をAIとの会話の中で勧められたという人も居た。

何かと便利だし、財布や通帳のように盗まれないし、急病で倒れた時にでも直ぐに処置してもらえるとか言われて。

俺だって、あのまま行ってたらきっと危なかったと思う。

奴らの側で上の立場に居る人間達は、おそらく全員既にマイクロチップが体に入っている。

だから、逃げようとすれば一瞬で殺されてしまう。

自分達は一般庶民より上の立場で選ばれた人間だと思っていた人が、自分も駒に過ぎなかった事を知る瞬間。

何だか悲しいなと思う。


奴らの組織の中で、マイクロチップを埋められていなくて自由意志で生きているのは、おそらくほんの一握りの存在達だけ。

そこまでの存在は、日本には居ないかもしれない。

本当のトップに居るのは非人類種。人ではない存在だし。


この情報も、今の場所に住むようになってから聞いた。

これを知った上で今までの事を振り返ると、なるほどと腑に落ちた。

だから奴らは、どこまでも残酷になれるわけだ。

奴らは人間と同じ種族ではなく、人間を自分達より下の存在と見ているから、どんなに残忍な殺し方をするのも平気。むしろ楽しめるという事だ。


世界中で今同じような事が行われているはずだし、全てを止める事は出来ないけど。

俺達は俺達の手の届く範囲、少なくとも東京では、奴らの計画を阻止する事が出来た。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る