第33話 入ってきたニュースに心が沈んだ けれど作戦は中止しない事に
一旦ここに来た人達に事情を説明して、他の場所への案内も終わった。
しろねこ庵の閉店後には、皆んなで祝杯をあげた。
狭い店内に居るのは、ほとんどがいつものメンバー。
店の入り口では白猫が長々と寝ている。
平和な光景。
亜里沙を初めてここに連れてきた時と同じように、今回も白猫は活躍してくれた。
チラシを持って店を探している人の前に現れ、誘導する役目。
猫だと全く警戒されないから、俺達としても本当に助かった。
のんびり寛いでいる姿を見ると、そんな事をしてくれるのは意外なんだけど。
いざとなるとサッと動いてくれる頼もしい存在。
チラシをポスティングしても出てこない人達は、あと一日二日待ってもチラシに気が付かないかもしれない。
今日これだけ目立つ動きをしてしまったからには、奴らに警戒されて妨害される恐れもある。
やりにくくならないうちに、急いだ方がいいのか・・・
何か理由をつけてこちらから訪問する作戦も考えた。
防犯カメラは入り口にも廊下にも当然あるだろうけど。
顔を見られたとしても、住所を特定されて家まで追ってこられる事がなければ別にかまわない。
結界のある路地は発見されないだろうし。
計画が思った以上にうまくいった事もあって、昨日の夜はとても気持ちよく眠れた。
今日も昨日と同様に、朝から早速様子を見に出かける予定だった。
ところが今朝、嫌なニュースを聞いた。
【山間部の空き家前で数十人が焼死しているのが発見された。ここで何かの会合が行われた模様。現場の状況から、集団自決だったのではないかと見られている。新興宗教の集まりがあった可能性も・・・】
聞いた瞬間、思い当たることがあった。
もしかして・・・昨日、俺達がやった事と何か関係があるのか。
サンプルに選ばれた人間達を、奴らの側からすると絶対に逃したくないわけで、それを止める役目を一番下の立場の者に命じたはず。
昨日俺達が倒した相手が、命令通り動いていた人達だとしたら・・・
彼ら側から見れば、追跡と妨害に失敗したという事で、上の立場の者から制裁を加えられたとも考えられる。
タイミング的にも昨日の今日だし。
亡くなった人の人数としても、昨日結果を報告し合った時に確認した、倒した相手の人数と近いものがある。
俺が朝起きて店に行ってみた時間には、既に数人が集まってこの話をしていた。
俺達が、実験のサンプルにされている人達を助けようなんて思わなければ、少なくとも誰も死なずに済んだのではないかと思うと、取り返しのつかない事をやってしまった気分になる。
皆んな感じている事は同じなようで、いつになく場の空気が沈んでいた。
「確かにこれはすごく悲しい事だけど・・・これが彼らのやり方だから。もし今回の事が無くても、他のどんな計画の失敗であっても同じ事は起きたと思うし、今までにも起きてる。下の立場の人達に命令して、言われた通り達成出来なかったらすぐに殺す。しかも、思いつく限りの残忍な方法で。それを見た他の人達が、自分がそうならないために必死で働くっていう状況を作るために」
若菜さんが、知っている事を話してくれた。
確かに、これが奴らのやり方なんだとは思う。
今回の事が無くても、血も涙も無い奴らは、失敗した者に対して容赦しないだろう。
「だから、作戦は中止しない方がいいと思う。私は。違うっていう人もいるかもしれないけど。今出来る事って、助けられる範囲の人を助けるしか無いと思うから」
考えてみるとその通りだと、俺も思った。
この作戦を中止したからといって、奴らのやる事は変わらない。
「それにね、彼らの中で上の立場・・・って言ってもトップから見ればまだ下の方だろうけど、そういう人達の考えが案外浅いのは、失敗した人を次々に殺していったら人が居なくなるって事を考えて無いんだよね」
「それはそうだよな。ただでさえ人数多くないってのに、そんな事やってたら余計に人が足りなくなる」
「失敗した人を残忍な方法で殺せば、残った人達が恐怖感から奮起して結果を出すっていうのが彼らの発想みたいなんだけど。それだけじゃ無理があるよね。人類全体に対して彼らがやってる事もそうだけど、支配者権力者が上に居て采配を奮っているからこそ、下の立場の人間が無事に生きていられるんだって信じせようとしてる。実際は、下で支えている土台が無くなったら上は簡単に崩れるんだけどね」
「脅すばっかりのやり方だと、逆にビビって逃げる奴とか出るんじゃないかなあ」
「逃げられないかもしれないけどね・・・」
皆で話している間にも、新しいニュースが入ってきた。
公園のベンチで座って休んでいる人が、ホームで電車を待っている人が、歩いている人が横断歩道の真ん中で、突然痙攣を起こして倒れ、そのまま死んでしまうという現象があちこちで起き始めている。
新たな感染症の疑いもあると、報道されていた。
何の前触れもなく、体を支えることもなく、棒のように倒れてそのまま息が止まるって・・・そんな感染症などあるんだろうか。
「さっき話してた通りだね。逃げようとした人が消されたんじゃないかな。彼らの組織に一旦入ったら、出るのは難しいよ」
「だけどどうやって・・・」
「体内にマイクロチップを埋めてると思うし、ターゲットを狙って電磁波の出力を強めればやれるんじゃないかと思う。裏切った人間が外に出てしまうと情報が漏れる可能性があるから、彼らも必死なんだろうね」
「死んだ人達は気の毒だけど・・・ビビらせて従わせようとした奴らのやり方は、失敗したってことだよな」
「そういうこと。実験のサンプルにされてる人達を助けるなら、逆に今がチャンスかもしれない」
「チラシ入れても反応無かった所は、直接行った方が早いかも」
俺達は、昨日と同じように作戦を実行すべく外へ出た。
助けようとする人の数は、あと42人。
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