第28話 外で襲撃を受けた 相手の目的が見えない

外へ出ると暑さが厳しかった真夏に比べ、少し涼しくなってきた。

このくらいの天候だとチラシのポスティングも楽にやれる。

今日は気持ちのいい天気だし、いつもよりちょっと多めにポスティングを終えて、これから帰ろうというところだ。


最初ここに来た時は、しろねこ庵が路地の行き止まりだと思っていたけれどそうではなかった。

店の裏が雑木林になっている正面からは見えなかったけど、裏にも道が続いている。

こちら側には民家はもう無くて、自然に生えた木々や草花が見られる。

この奥に湧水が出る場所があり、神社もあった。

すごく心地よくて、静かな場所。

ここを抜けると、いきなり普通の住宅街に出る。

地図に書いてある方の路地の入り口と同じ感じ。

ここも、誰でも入れるわけではないらしい。

むしろ、地図に書かれている方の入り口より更に見つけにくい。

中に入って行くと少し道幅が広くなるけど、入り口のあたりは一人がギリギリ通れる程度の細い道。

草が生い茂っていて奥が見えないし、道を見つけたとしてもここを知らなければ、暗くて気味悪くて入れないかも。その方がいいんだけど。

路地の中の住人は皆んなもちろんこっちも知ってるから、ポスティングに行く時はこっちから出る時もある。

俺は今日この道から出てきて、ポスティングをしながら街中をぐるりと回って、地図に載っている方の入り口へ帰るコースを歩いた。


路地の近くまで来た時、店のチラシを持ってゆっくり歩いている人物を見かけた。

20代前半ぐらいに見える若い男で、まだ学生かもしれない。

チラシは、自分の配っている物だから見ればすぐ分かる。

裏から見ても特徴のある紙だし、あの大きさだし。多分間違い無い。

何かを探す様に辺りを見ながらゆっくり歩いてるし。

俺が初めて店に行った時も、多分あんな感じだったかと思う。


しばらく様子を見ていると路地の入り口付近まで辿り着き、あの道かなという感じで見ている。

入り口を見つけられるという事は、入ってもかまわない人物だ。

それにさっきから見ていて、こちらの警戒心のアンテナに反応するような嫌な感覚は無い。

俺は、近づいて行って声をかけた。

「こんにちは。もしかして、この路地の奥の店探してるんですか?」

「・・・はい。そうですけど」

いきなり声かけたし、ちょっとびっくりさせたか・・・

「この路地に住んでる者なんで、店もよく知ってるもんですから。分かりにくい場所だから、この辺で探してる人が時々居るんですよね。それで、もしかしたら行くのかなと思って声かけたんですけど。急にすみませんでした」

「そうなんですね。ありがとうございます。このチラシ見てきたんですけど」

やっぱり店のチラシだった。

それを見せながら、今度は笑顔になってくれた。

信用してくれたらしい。

「これから帰るとこなんで、良かったら店まで案内しましょうか」

「助かります」


先に立って歩き出そうとした時、背後に不穏な気配を感じた。

さっきから話しているこの男性とは全然別の・・・

半身になって振り返った時、明らかにこっちに向かってくる男の姿が見えた。

反対側にも。

相手は二人居る。

近くに人通りはあるけれど、皆んな急いでいて誰も関心を示さない。

「下がって」

「え?どうしたんですか?」

緊迫感は伝わったらしい。

彼はチラシを持ったまま、驚いた表情で固まっている。

「あの路地の中まで走って。早く」

何が起きたかわからないまま、彼は走り出した。

途端に、近付いてきていた男二人が、彼を追った。


俺は走って、追っている二人の前に回り込んだ。

追跡を邪魔するこちらの意図が分かると、最初に来た男が殴りかかってきた。

半歩足をずらして攻撃を躱し、相手がバランスを崩したところで腹に膝蹴りを入れた。

首の後ろに手刀を叩き込むと男は倒れた。

すぐに背後から、もう一人が殴りかかってきた。

振り返りながら頭を下げて躱し、鳩尾を狙って拳を叩き込むと、相手はその場にうずくまった。

しばらくは動けないかもしれないが、間違っても死ぬような事は無いはず。

さらに数人が、こちらに向かって走ってきている。

増援が来たか。

特に強い相手ではなかったけれど、さすがに相手が多い。

それに、騒ぎを起こすと面倒な事になりそうだ。

こっちは、横領の容疑者として追われている身だし警察にも頼れない。

俺は、路地の方に向かって全力で走った。

さっきの喧嘩で、野次馬が集まり始めている。

後から来た奴は人が多くて走りにくいはず。


路地の中へ走り込むと、さっきの彼が心配そうな顔をして待っていた。

「大丈夫ですか?!」

「平気です。ここまで来たら多分もう追って来ない」

実際その通りだった。

あいつらはおそらく、路地の入り口を見つけられない。

俺達二人が忽然と姿を消したと思って、今頃探し回っているに違いない。


「あの・・・ありがとうございました。追いかけられてたのって、僕でしたよね?人から追いかけられるような覚え無いんだけど・・・ひったくりとか通り魔ですかね?最近治安良くないし」

「そういうのとも違うかも。だけど別に誰かから恨まれてるとかじゃないと思いますよ。どうせ店に行く予定だったんでしたら、良かったら店でゆっくり話しませんか?怪しい者じゃないんで・・・って今更自分で言うのもなんですけど」

「さっき助けてもらいましたし。疑ってないです。見てましたけど、すごく強いんですね。めちゃくちゃかっこよかったです」

「いや・・相手があんまり強くなかったから」

俺は、何となく照れ臭くて言葉を濁した。

「行きましょうか」

先に立って歩き出す。

若者からキラキラした目で「強いんですね」とか「かっこよかったです」なんて、言われたのは人生初の出来事だった。


相手が大して強くなかったのは確かだけど、もし以前の自分だったら、さっきのようなわけにはいかなかったと思う。

二人がかりで来られたら、反対にボコボコにされて捕まってたかも。

そう思うと随分変わったもんだと思う。

ここでの肉体労働と、格闘技を教えれくれた師匠のおかげだ。


俺も追われてる身だけど、さっきの奴らは警察じゃなかった。

それに、さっき奴らが追いかけてたのは明らかに俺じゃなくて、この彼の方だ。

彼一人を追っていたのか、それとも店に近付く人間を?

しろねこ庵のチラシはあの時回収したし、繋げて考えられるはずはないけど・・・















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