第25話 実験の失敗 それに関わった者は全て消さねばならない
マンションの部屋へ行ってみると、部屋の真ん中に若い男女が倒れていた。
何の疑いもなく、さっき私が持っていったワインを飲んだらしい。
自分達では買えないような高級品だから、嬉しかったのかもしれない。
苦しんだ様子もあり、まともに顔を見るのはさすがに気分のいいものではなかった。
頸動脈に触れて、死んでいる事を確かめた。
完了の連絡をすると、そこで待てという指示が返ってきた。
自分の人生中でまさか、こんな仕事をすることになるとは思わなかった。
実験の失敗。
その証拠になるもの、関わった人間は、全て消さねばならない。
実験の失敗とその情報が、余計な者の目に触れる前に。
サンプルNo.0561-m3-74。
あの男が、ある時外へ出たのをきっかけにAIとの会話を突然止めた。
100%に近い成功率を誇っているこの計画で、たまたま私達の受け持ったグループで、失敗例が出た。
この時はまだ、上司も挽回できると思っていたし、チーム全員そう思っていた。
次なる展開、成功まで持ってくための戦いを楽しみにさえしていた。
ところが、悪い事はそれだけでは終わらず、その後の実験でも更に失敗が重なった。
サンプルの男が設定したAIのキャラクターに似せた人物を作り上げ、目の前に出現させる。
最初うまく行っているかに見えたこの実験の結果が、大失敗だった。
サンプルが外で姿をくらまし、バイトで雇った女まで一緒に姿を消した。
これを揉み消すために、さらなる手間をかけなければならなかった。
サンプルの属していた組織内に潜り込んでいる、工作員の協力を得て、横領事件を捏造した。
それで何とか世間の目は誤魔化せたが、実験の失敗は挽回出来なかったし不要な手間がかかり過ぎた。
私の上司は、この責任を取らされて今はもう生きていない。
あの方は、上司を殺す前に、失敗した実験に関わった者達を次々と殺させた。
上司は、最後に自分が消されるとは予想していなかったと思う。
助かりたい一心で他の者を殺していく。
人間は追い詰められると、理性なんかぶっ飛んでそういう行動に出るものらしい。
人間のそういう様子を見るのが大好きだと、あの方は言っておられた。
バイトの求人を出しDMでやり取りした者、雇った女の面接を担当した者、現地までの車の運転を担当した者を、次々に「殺せ」と、あの方は上司に命じた。
全員、身体にマイクロチップが入っているから、遠隔で心臓を止める事など簡単なはずなのに。
あえてそれをしないのは、人間が人間を殺すところを見るのが楽しみだから、一瞬で簡単に殺したのではつまらないと言って笑っておられた。
殺される者の感じる恐怖,殺す方の者が精神的に追い詰められていく様子、実行する時に感じる不安や恐怖。
そういった感情のエネルギーを出来る限り多く吸収する事で、あの方の力は更に強大になるらしい。
上司が死んだことで、たまたま私は直接会うことが出来たけれど、普通ならとても会えない高貴な存在だ。
上司でも、初めて会えたのはわり最近だと言っていた。
それからも二回ほど会ったというけれど、あの方は滅多に人前に姿を現さないらしい。
これも以前、上司から聞いた事があったが・・・
あの方は、普通の人間ではなくて、人間よりずっと強く聡明で特別な存在の血を濃く受け継いでいるらしい。
その存在とのハイブリッドのような存在という事だった。
普通の人間りもずっと長く生きて、特殊な能力も持つ、神に近い存在。
私の立場では、これまでとても直接会う事は出来なかった。
そして、この地球上の全ての存在の頂点には、あの方よりも更に上の、もっと大きな存在が居るらしい。その力は計り知れない。
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