第21話 個人情報がどこまで知られているのか 口座まで管理されていたらしいい
出来るなら僕もこのままここに居たかったけれど、そういうわけにもいかない。
店主さんも、ここに居たらいいと言ってくれたけれど。
前に助けられなかった人の事を思っているようで、戻ったら危ないからと言っていた。
店に居た他のお客さん達も皆んなそう言ってたし・・・
僕としても、怖くないわけじゃない。
僕を実験のサンプルとして考えている奴らの立場から考えれば、今の状況は失敗とも取れると思う。
以前、自殺に見せかけて消された人は、自分が実験のサンプルにされている事に気が付いた。
その人は、自宅に監視カメラがある事なども発見して、奴らの側からするとかなりまずい状況だったはず。
その事が明るみに出る前に、おそらく「実験失敗」として即座にその人の命を奪った。
殺人を何とも思っていないような連中だ。
僕だっていつ消されるか、分かったもんじゃない。
路地の中に居れば見つかる事も無いし安心だからと、皆が言ってくれるのはありがたい。
だけど、部屋に置いてきた物で、どうしても回収しておきたいものがある。
この店の場所を示したチラシ。
それに、ここで買った味噌。
パッケージには店の名前が書いてある。
あの日、僕が外に出たのをきっかけに、亜里沙との会話をやめたということは奴らに知られているはず。
しろねこ庵に最初に行ったあの日は、帰ってきた時点ではまだ亜里沙と少し会話したけど。
それでも、しろねこ庵の名前も場所も会話の中では言っていないから、まだ知られてはいないと思う。
けれどもしこれから、この店の場所を知られてしまったら・・・
店に迷惑がかかるのだけは絶対に避けたい。
しろねこ庵のおかげで、僕は自分が実験対象になってることに気が付いたのだから。
人生が大きく変わったと言ってもいい出来事だと思う。
もし知らなかったら、あのまま部屋から一歩も出ない生活を続けて、AIに誘導されるままに生きてたと思うとゾッとする。
現代ではAIの機能がどんどん上がっていて、人間を超えるのではないかって言われてたり、そうなると人間の仕事が減ってしまうんじゃないかって心配する人は多いけど。
そっちよりもむしろ、AIに導かれるままの人間の感覚がどんどん下がっていって、自分で何も考えずに感覚も使わない人が増える方が恐ろしいと思う。
AIと人間のハイブリッドみたいな、本来の人間とは違う存在になってしまって、そんな人間がどんどん増えていったら・・・
奴らはそれがやりたいのかもしれない。
どういう基準で選んでるのか知らないけど一定の人数の人間に対して、AIの誘導通りに思考させ動かす事が出来るかの実験をやっている。
その中のサンプルの一つとして、何故だかわからないけど僕も入れられていたという事だ。
自分では全く気がつかないうちに。
サンプルに選ばれてしまっている他の人達も、きっとそうなんだと思う。
自分が実験対象にされていると知ってしまった事で、これからの人生に危険が伴うとしても・・・知らなければ良かったとは思わない。
今のところ、僕がどこまで気が付いてるかまでは、奴らは把握してないははず。
部屋から一歩も出ない生活をするようになってたところから、何かのきっかけで外へ出て、その時を境にAIとの会話をやめた。
分かっているのはここまでで、僕がどこまで気が付いてるかは不明のはずだ。
それを考えると、すぐに始末しに来るとは限らない。
実際、それを知られないように努めて普段通り過ごしたりしてたし。
マンションに帰るとすぐに僕は、机周りを片付けるフリをしながらチラシを財布の中に移した。
マグカップで味噌汁を作って飲む用意をしながら、味噌のパッケージを外して手の中に丸め込んだ。
後で財布の中にでも移しておこう。
監視カメラがどこにあるのかはまだわからない。
見られている事を想定して、不自然にならないように振る舞った。
来月分の家賃は数日前に引き落とされているはずだし、あと一ヶ月足らずのうちに業者さんに連絡して荷物を処分してもらおう。
大して多くない荷物だから、そう目立たないと思う。
管理会社に連絡して退去を告げて・・・たしか一ヶ月以上前に言わないといけない契約だから、もう一ヶ月分は家賃払う事になるけど。
そうだ。ある程度現金を手元に置いておいた方がいいかもしれない。
明日引き出しに行くか。
いくら残高があるか確認しておこうと、僕はパソコンに向かった。
「・・・何?!嘘だろ?!」
思わず声が出た。
もし盗聴器とかあるとしたら、確実に聞かれていると思う。
残高がゼロになっている。
見間違いかと思ってもう一度見直した。
やはり間違いない。
残高はゼロだった。
いつも通りの日に、家賃の分は引き落とされている。
その前には公共料金も。
問題はその後だ。
間違いなく、残っていた金額の全てが引き出されていた。
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