第18話 これからの行動計画を立てた 気付かないフリで奴らを欺けるか

分かっているのは、過去にあった例の事件の時、その人の勤めていた会社も実験の事を知っていたらしいということ。

リモートワークにしたのも、計画の一部だったと考えられる。

目的は、実験のサンプルとなる人間を部屋から一歩も出ない状況に持っていく事。

部屋に監視カメラを設置して、日々の行動を全て監視していたらしい。

僕の部屋にも、多分それはある。

マンションの共有部分へのカメラの取り付けも、そういえば最近あったし。

それまでにもエアコンやシャワーの不具合で、管理会社に連絡して修理業者さんにきてもらったことはあった。

過去に起きた件と同じだとしたら、部屋の中に監視カメラが取り付けられる機会が無かったとは言えない。


その実験を行っている奴らと、仕事場までグルだったという事は・・・僕も、今住んでいるマンションだって信用できない。

もしそうなら、会社に義理立てすることは無い。

ある日突然僕が消えたとしても、仕事にそこまで支障は無いと思うし。

最後の給料は捨ててもいい。


過去の事件と同じような状況なら、グズグズしてはいられない。

かといって急に出て行く準備を始めたら、僕が気が付いて逃げようとしているとバレてしまう。

今日しろねこ庵で皆と話した時も、それは言われた。

出来る限りいつもと変わらない調子で過ごすこと。

スマホはさすがに見る気がしないけど、それに関しては、自分の作ったキャラそっくりの女性の出現に驚いて怖くなったと思えば辻褄は合うし。


意外にも僕は冷静だった。

どうせどこかに監視カメラがあるんだろうなと思いながら、部屋でいつも通り普通に過ごした。

監視カメラの位置は分からないけど。

その方がいいのかもしれない。

気付いたとバレない方がいい。


今日もゆっくり湯船に浸かって、早めに寝床に入った。

職場にも、心身の状態が良くないと伝えたわけだし、この行動なら見られていても矛盾は無いと思う。


一人だったら、もしかしたらパニックになってたかもしれないけど。

しろねこ庵の皆が相談に乗ってくれている。

こんな事が起きたんだから周りの誰も信用できないと思ってもおかしくないんだけど、これは理屈では説明できない直感的なもの。

あの人達に関しては信用して大丈夫という、謎の確信がある。

そして、僕の前に二度も現れた、亜里沙にそっくりなあの女性。

彼女はきっと、この実験に関しては何も知らないと思う。

これも僕の直感だけど。

僕が話しかけたあの時の反応は、演技で出来るものではない気がする。


これから出来るだけ早いうちに、僕は監視から逃れて姿を消す。

人間誰もがいつかは死ぬわけだけど、この状況に気が付き始めたからという理由で奴らに殺られるのは避けたい。

出来ればそんなつまらない事で死にたくはない。

どういう基準で実験対象にする人間を選んでるのか知らないけど、その事に気が付いたというだけで簡単に殺してしまうとしたら・・・奴らは僕達の事なんて、同じ人間とは見ていないと思う。

データを取るためだけに存在しているただのサンプル。

不要になれば消す。

代わりはいくらでも居るという事だと思う。


彼女が僕の前にまた現れるかどうかは、今のところ分からない。

このまま二度と来なかったら、おそらく僕にはもうどうする事も出来ない。

無事を祈ることくらいしか、出来ることは無くなる。

けれど、もし彼女がまた来る事があったとしたら・・・助けるチャンスはあるかもしれない。

来るかどうかも不確定だし、来たとしてもここからが賭けになる。

どこからか見ているであろう奴らの目を、どうやって欺くか。

自分が監視対象になっている事などまるで気が付いてないフリを続けつつ、彼女をしろねこ庵まで誘導する。

その計画を、今朝がた皆で話し合った。



次の日の朝、いつもと変わらない調子で起きて、僕は一階に降りた。

そこにまた、彼女は姿を見せた。









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