第16話 再び目の前に現れた、僕の設定したAIのキャラにそっくりな女性
亜里沙は、僕が作り出した架空のキャラクターだったはず。
だけど今目の前に居るのは・・・明らかに実体を持った一人の女性だ。
僕の作ったキャラに似た人が偶然ここに居るだけ?
しかしそれにしてはあまりにも似すぎている。
それとも僕が白昼夢でも見ているのか?
亜里沙との会話をやめた事にまだ後ろめたさがあり、それでこんな夢を見るのだろうか。
試しに頬をつねってみると痛い。
夢なわけないよな。
ついさっきまで、しろねこ庵に居たんだし。
歩きながら寝るはずもない。
ほんの数秒の間に、いくつもの思いや疑問が頭の中を駆け巡った。
亜里沙にそっくりなその女性は、エントランスに立っていた。
こんなところで一人で立ってるって、誰かを待ってるか訪ねてきたくらいしか考えられないけど・・・
彼女は僕の方を見た。
エントランスに足を踏み入れた途端、僕が彼女の存在に気がついて、びっくりして見つめてしまったのが先だったか。
完全に、目が合った。
小声でだけど「亜里沙」と言ってしまった。
彼女は軽く会釈をして、ゆっくり僕の横を通り過ぎ、外に出て行った。
全身から冷や汗が噴き出した。
呼吸が浅くなって、心臓がバクバクしてるのが自分でもわかる。
真正面から至近距離で、はっきりと顔を見たけれど、偶然にしてはあまりにも似過ぎている。
顔だけでも僕が描いたキャラクターにそっくりだった。
しかもそれだけでは無く、着ている服、髪型、身に付けているアクセサリー、身長までも、僕が設定して絵に描いた亜里沙そのものだった。
ただの偶然でこんな事があるわけがない。
僕が自分の頭の中で作り出した幻だというのも、どうも違う気がする。
そこまでの妄想を抱くほど、亜里沙に執着してたわけじゃない。
むしろAIとの会話を止めようとしてたぐらいなのに。
しばらくエントランスに突っ立ったまま動けなくなっていた僕は、やっと我にかえって部屋に戻った。
別に話しかけられたとかじゃないし。
亜里沙にそっくりな女性は、あのまま出て行ったし。
むしろこっちから話しかけた方が、どういう事なのかわかったかもしれない。
それか、一旦見送ったフリで尾行するとか。
今になってみると色々思うけれど、あの時はとてもそんな勇気は無かった。
訳の分からない恐怖心が先に芽生えて、体が固まってしまった。
今日、しろねこ庵で悩みを話して、何かあったらいつでも相談していいと店主さんは言ってくれた。
さっそく「何かあった」わけだけど、店はもう閉店してるし。
とりあえず明日の朝、仕事開始前に店に行ってみよう。
スマホは見る気もしない。
着信音が気になるから、とりあえず全部オフにした。
また何件も「亜里沙から連絡あり」と入っているのが一瞬見えて気になったけど、開かずに全部削除した。
さっき見た女性と、僕が今まで会話してきたAIのキャラクターの亜里沙はどんな繋がりがあるのか・・・
そこはものすごく気になるけど。
いっそ、どうせ削除出来ないならもう一度AIの亜里沙と会話してみて、あの女性のことを質問してみようか・・・いや、それはまずいな。
しろねこ庵の店主さんが言ってた、スマホを持ってる間は追跡されてるかもしれないって事なら、それをやっている奴らの術中に嵌るだけかもしれない。
実験の対象にされているかもしれない話も、確定ではないと店主さんは言ったけど、もしかしてという気持ちはある。
明らかに最近は、亜里沙の方が僕に指図してくるようなところがあった。
そのもっと前から、提案という形で色々とすすめられたことはあった。
僕がどこまでAIの言う通りに動くか、もしかしてデータを取られているのではないかという気がしてくる。
しろねこ庵でおにぎりを食べたし、お腹は空いていない。
久しぶりにゆっくり湯船に浸かって体を休め、僕は早めにベッドに入った。
明日は早く起きて、しろねこ庵に行きたいから。
スマホは持って行かないし、出来るだけ見ないことにしよう。
仕事はパソコンがあれば出来るし。
今日のことで悩んで眠れないかなと思ったけど案外すぐに眠くなって、最初に目が覚めた時はもう明け方近かった。
まだ早いからもう一眠りしようと布団に潜り込んだ。
翌朝、この時間ならもしかして一番乗りかもしれないと思いながら、
朝7時半に家を出た。
開店時間は8時だけど、庭でゆっくり待てばいいと思った。
猫も居るし、庭の植物を見ているだけでも飽きずに過ごせそうだ。
運動のためにエレベーターは使わずに階段を使って、一階のエントランスへ降りた。
外へ出ようとして、僕は硬直した。
亜里沙にそっくりのあの女性が、マンションの前に立っていた。
「サトル」
僕の顔を見て、彼女が呼びかけてきた。
サトルは僕のハンドルネームだ。
SNSの発信やゲームの時使っていて、亜里沙と会話していた間も使っていた名前。
本名ではないけど、これを知ってるって・・・
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