第12話 裏側の計画 ある女性が見つけたバイトの募集広告

勤めていた工場の仕事が突然終了になり、そこの寮に住んでいた私は出ていくしかなかった。

一ヶ月猶予がもらえただけでもマシだったのかもしれない。

それでも、保証人も居なくておまけに無職になった女に借りられる物件は無く、今はとりあえずネットカフェで過ごすしかない

貯えというほどのものは無いし、単発のバイトでもやって生活費を稼ぎながら、これからどうするか考える。

何か資格があるわけじゃないけど、幸いな事に健康だし、体力にもまあまあ自信があるし、年齢もまだ三十歳。

仕事は真面目にこなす方だし、問題を起こして解雇されたような経験は今まで一度も無い。

やれる仕事の範囲は広いはずだと思う。


いつもはネットで求人情報をチェックするんだけど、あの日はちょっと気晴らしにSNSのタイムラインを見ていて・・・偶然、バイト募集の投稿を見つけた。

私が、いい仕事無いかなあといつも思ってるから、無意識にそれを探し当てたのかもしれない。

【学歴経験不問 簡単なお仕事です サービス業 日払い可 二十代三十代の男性女性が活躍中 11時〜20時 シフト制 勤務時間は3時間から応相談 時給2000円以上・・・】

六時間勤務できたとすると、一日で一万円以上になる。

かなりいい方だ。

あまりに条件が良すぎると逆に怪しいと思うけど、これくらいの条件というのは特に珍しくもない。

サービス業と言ってもどういう内容かは気になるけど。

体を売るとかそれに近いような仕事だったら嫌だし。

だったらもっと時給高いと思うけど・・・

SNSではハンドルネームを使ってるし個人情報も出してないし、DMでやり取りするみたいだから・・・危ないと思ったらブロックすれば済むことだと思った。

投稿しているアカウントのプロフィール欄見た限りでは、怪しい感じはしなかった。


とりあえずDMで連絡してみると、相手の返信は敬語できちんとしていて、この段階でも怪しい感じはしなかった。

詳しい内容は後からと言われた時、やっぱり危ない話なのではないかと一瞬思った。

だけど・・・面接の約束まではしてしまったし、とりあえず話だけ聞いてみよう。

もし本当に怪しいと思ったらその場で断ればいいわけだし。

今から心配しすぎても仕方ない。

私の思い過ごしで実際はまともな仕事だったら、断るの勿体無いし。

指定された面接の時間と場所も、昼間の時間帯だし人の多い場所だし、危ないバイトの斡旋とかそういう匂いはしないと思った。


面接の場所として指定されたカフェに入って待っていると、近付いて来たのは女性だった。

見たところ三十代半ばくらいで、多分私とあまり年が変わらない。

黒髪のショートカットで、明るめのグレーのスーツ姿。

きちんとした人に見える。

SNSのアカウントは男性のようだったから、その人が来るのかなと思ってたので意外だった。

ここのカフェは、カップルや友達同士で来ている人が多くて騒ついている。

一人で座っているのは私ぐらいだったから、すぐ見つけられたらしい。


「ちょっと騒がしいところだけど、この方が安心感あるかなぁって思って」

笑顔でそう言われると、緊張感が抜けた。

「怪しい仕事だったらどうしようとか、ちょっと思ったんじゃない?」

図星だったので笑って誤魔化した。

「詳しいことは後でなんて言われたら、普通そう思うよね。実はね、私も最初募集広告見て来た人だかから。あなたと同じ。最初はめちゃくちゃ怪しいって思ったよ。だけどお金も要り用だったし、思い切って連絡してみて何回か仕事したんだけど、変な仕事じゃないから大丈夫。安心してね。今は面接とかもやってるけど、本来の仕事も並行してやってるし」

「そうなんですね。もう長いんですか?」

「二年目に入ったとこ。敬語要らないよ。年も近いでしょ」 


最初からフレンドリーだけど図々しくはなくて、嫌な感じはしなかった。

女性で、しかも同じ仕事をやっている人というので、さらに安心感もある。

仕事の内容を聞くと、体を売るとかそっち系の仕事では無さそうだった。

「DMの文章で伝えても伝わりにくかったりするから、詳しい内容は後でってことにしてるみたい。ひやかしで問い合わせだけしてくる人も多いし、いちいち時間かけて説明してられないしね」

なるほどそれはその通りだろうと思うから納得した。

「コスプレって知ってるでしょ。アニメとかゲームとかのキャラクターになりきる遊び」

「やったことは無いけど、見たことだったらある」

「それとね、スマホの新しい機種になら入ってる、AIを育てていく遊びは知ってる?」

「AIと会話するやつ?それも使ったこと無いけど」

「それが今けっこう流行っててね、それを使ってる人が次に求めるサービスっていうのがあるわけ。AIだと音声だけでしょう。音声ではかなり人間に近い会話が出来るんだけど、そこまで来たらさらに次を求めるのが人間の心理よね。空間に立体で見せる物も研究されてるから、遠からず出てくるとは思うけど。今の段階ではまだそれを使ってるのは企業単位で、個人には普及してない状況だから。AIで作り上げた人物を実際に見たいっていうお客さんの欲求は満たせてない。それを提供するのが、私達がやってる仕事」


タブレットの画面を見せてもらうと、色んな人の写真が並んでいた。

見るからにアニメのコスプレという感じのもあるけど、そうではなくて普通の勤め人みたいに見える人の写真もある。

男性女性半々くらいで、年齢も子供からお年寄りまで様々。

「バーチャル恋愛したい人とか友達欲しい人とか、子供が欲しいけど産めない人とか、親が早くに亡くなってて親代わりの人物に話聞いて欲しいとか、需要は無限にあるんだよね」

ザッと見たところ一番多いのは二十代三十代の男女だ。

だからあの募集内容だったのかと思う。


「お客様からの依頼があったら、そのお客様が作ったAIのキャラクターと出来る限り近い見た目を作って、指定された場所へ行ってもらうのが仕事」

「行って何かするの?」

ちょっとだけ不安になって聞いてみた。

「姿を見せるだけでいい場合がほとんどだから安心してね。デートクラブみたいなのとは全然違うから」

「それでお客さんが満足するの?お金払って、ただ見るだけって・・・」

「学習したAIは相当人間に近いからね。ヘタに深く話したりすると、違うところがいっぱい出てきてかえって幻滅するから」

「なるほど。夢は夢のままでってことか。確かに・・・話し方や性格までお客さんが作ったAIに似せようと思ったら、相当大変だもんね」

「そういうこと。そこまで出来る人って滅多に居ないよ」


私は仕事を引き受ける事にした。

試用期間として最初の仕事を一回やって、それが上手くやれたら本採用という事で定期的に仕事がもらえるらしい。

上手くいけば無職から脱却できる。

勤め先がはっきりすれば、アパートも借りられるかもしれない。

どちらかというと黙々とやるような作業が好きで、話すのは得意じゃないけど・・・あまり話さなくていいなら出来そうだ。

人を喜ばせる仕事でお金がもらえるなら嬉しいと思う。









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