第11話 管理する側の視点 サンプルNo.0561-m3-74の異常行動
さっき報告した内容に関して、上司からの返信が来た。
サンプルNo.0561-m3-74の異常行動の件だ。
「面倒な事になったな」
「サンプルを始末して実験終了ですか?」
「そうすると初めての失敗例という事になってしまう。出来ればそれは避けたい。まだこちらの監視がバレたわけでは無いし、修正出来る方法はある」
「分かりました。指示を待ちます」
たしかに今までは、監視している事をサンプル自身に気付かれたという失敗例は数件あった。
しかしこれは、実験そのものが失敗したのとは違う。
今回の場合は、今までに無いことが起きてしまっている。
今日の午後からサンプルが、AIとの会話をしなくなった。
さらに、仕事を終えてすぐ外に出て行った。
一時間足らずで戻っては来たが、明らかに様子がおかしい。
帰ってきてからも一度もスマホを見ようとしない。
万が一、サンプルが自らの意思でAIと会話するのを止めるような事が有れば、洗脳プログラムの失敗ということになる。
今までどの地域でも、そんな事は起きていない。
もしかしたら、前に一度外へ出た事が影響しているのかもしれない。
マンション共有部分への監視カメラ取り付けがあった時。
最初に下に降りた時は、どこかへ行くつもりは無かったようだが。
そのあとに何か、急に思いついて行動したらしい。
出てから帰宅するまでの時間は約一時間。
AIに話した内容からすると、外で食品を買って戻ってきている。
近くで物を買うだけにしては時間が長いとも思うが。
あの時サンプルがスマホを持って行かなかった事で、行き先も追跡出来なかった。
もしかしたら今回も、同じ場所へ行ったという事も考えられる。
AIに対しても、前回の行き先について詳しく話さなかった様だが・・・
自分の意思で何かを隠すとか、どこかへ出かけるなど・・・
この平凡な男に、そこまで思考する能力があるとは思えないのだが。
無能なバカほどたまに気まぐれを起こし、根拠の無い行動に出るという事はあるかもしれない。
それにしてもスマホを一度も見ないというのは明らかに異常事態だ。
まさかとは思うが、誰か助言する人物でも現れたのか?
もしそうだとしたら、面倒な事どころの話ではない。
我々の計画を知って邪魔している存在が居るという事か?
何の目的で・・・
仮にそんな事があったとすれば、その人物が「自分に会ったことや話したことを他言するな」と伝えたかもしれない。
ここ数日のデータを振り返って見ると、あの時以降AIに対して「今日も亜里沙の夢を見た」という話をしなくなっている。
思考操作の影響のレベルが、弱まっているという事なのか?
そこまで考えた時に、上司から連絡が来た。
「サンプルの動きは?」
「まだスマホを見ません。風呂場へ行った後は、何をするでもなく窓を開けたまま外を見ています」
監視カメラの映像を確認し、上司に伝えた。
実際、さっきからずっとこの状況だ。
一瞬、監視カメラに異常が起きて映像の方が停止しているのかと思ったくらいだ。
「認知症が始まるには年齢的に早いと思いますし、仕事をこなす程度の能力は残っているはずですし・・・急に頭がおかしくなったのでしょうか」
「外から何らかの刺激があった可能性はあるな」
「先ほど私もそれを考えていました」
「もしそうなら尚更、サンプルを始末してしまっては、原因を究明出来なくなる」
「尾行の用意をして、動くのを待ちますか?」
「その前にこちらから仕掛ける。何者かが助言を与えているとしたら、次に出かける先はサンプルの意思ではなく、何か計画されたものかもしれない。こちらが尾行するのを予測している可能性もある。その前に先手を打つ」
「確かに。その通りですね。了解しました」
「今回の対策も初めての試みだが。これを試すいい機会かもしれない。自分が作った想像上のキャラクターだったはずのAIが、実在人物として目の前に現れるというものだ。どういう反応を示すか見ものだな」
「サンプルが精神的パニックに陥って予想外の行動に出れば、もし邪魔者が居たとしたら、そいつの指示通り動かなくなる可能性もありますね」
「邪魔している者がもし存在するなら個人ではなく組織だろうから、多少イレギュラーな事が起きても対応してくるとは思うが。その動きを見てこちらもまた次の手を考える」
上司とのやり取りを終えてから、再び画面を確認した。
サンプルはまだ、窓の外を眺めているだけで動かない。
一体何を考えているのか。
考える能力など無いだろうが。
ただ外を眺めて呆けているだけなのか。
こんなバカの気まぐれな行動に振り回されてはつまらないと思ったが、相手が組織となれば話は違ってくる。
確かに失敗例は作りたくないが。
邪魔立てする組織がもし存在するなら、チーム全体としての危機という
事になる。
反対勢力が存在するなら徹底的に潰すまでのこと。
戦い甲斐があるというものだ。
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