第10話 勉強会で言えない④
「え……いじめ?姫子が、あたしを?」
ああ……。やっぱそうなっちゃうか……。
時間の問題だと思っていた。そりゃそうだ。あたしは姫子が自ら企画したハロパを台無しにした原因のくせに、仲直りしようとジュリが差しだしてくれた手に噛みついて、今なんか敵対してたむにこ陣営にいるわけだし……。
……あれ?
「そんな……ひどいです!」
「ひ~こわいね~」
「証拠はあるのか?あるなら早めに先生に相談しておこう」
わ、みんな優しいな……じゃなくて、待てよ……?
「まだよ!移動教室のとき
「そう……だね。そういうのって結局SNSで流れができていっちゃうものだと思うし……」
「いじめが始まると巻き添えになる危険性もあって庇いづらくなるしな。流石むにこ。良い仕事だ」
「や、あの……」
「メイちゃ~~んよかったねぇ~~こわかったねぇ~~」
「安心しなさい!!むにの目の黒いうちはむにのクラスでいじめなんて起こさせないわ!!」
「や、その……!」
まずい、混乱してきた。情報が怒涛の勢いで、まずい、流される、このままじゃ流れでむにこ派に保護してもらうことになる……!別にそれが悪いことってわけじゃないけど、でもこんな流れでそうなるのはダメだ。
それは本当に、姫子たちだけじゃなく、姫子グループで過ごしてきたこの半年間の思い出まで裏切ることになる気がする。
しっかり考えて、心を整理して決めないと……ダメだ!
「その、ちょっと待っ」
キーン、コーン、カーン、コーン……。
予鈴があたしの上ずった声を掻き消した。試合終了の合図だ。むにこ派の優等生たちは大慌てで空のお弁当をしまって真っ直ぐと教室へ戻っていく。
あたしはその後ろを、へらへらぎこちなくついていく他なかった。
あたしって、どうしていつもこうなんだ……。
◇
キーン、コーン、カーン、コーン……。
また鐘の音が鳴る。今度は六限目終了の合図だ。あとはSHRがあって、その後はむにこ派のみんなと過ごす……の、か?。
姫子派に比べるとむにこ派の人たちはさっぱりしているというか、精神面の結びつきは深いけど、実質的な付き合いは少ないように思う。席が近かった牧岡さんに聞いたかんじ、休み時間ごとに机に集まって駄弁ったり、一緒にトイレに行って
「おうおーう、お前ら席に着けー。しょーとほーむるーむだぞー」
あれこれ考えていると担任教師が戻ってきた。立ち歩いていた生徒たちがそそくさと自分の席に座り、めんどくさそうにタブレットを操作する教師が何事かを発表するのを待つ。疲れた顔を隠そうともしないやつれたその人はぽちぽちと液晶をタップして、けだるそうに話し始めた。
「えー、では。みなさん大変です。再来週はいよいよ期末テストです!範囲の一覧が今配布されたので、ちゃんとチェックしといてねーっと……」
教室のあちこちから大げさな悲鳴が上がる。
「ええええぇーっ」
あたしの悲鳴もその一つだった。
ただでさえ、ただでさえ人間関係でごっちゃごちゃになってるのに、今、テスト勉強?ムリ、ムリムリ、ムリがすぎるって……!
「はーいどうどう、どうどうー。えーいつもなら先生から言うのはこれだけでいいところなんですがー。世の中には先生みたいな、上の人から言われた程度ではお知らせをチェックしない人間もそこそこいるのでー……。よいしょ、読み上げソフトくんに今から範囲を全部読んでもらおうと思います」
自分で読むのもめんどいらしい。流石はわれらがヒナちゃん先生、学園一のものぐさを自称するだけある。
今でも稀に動画から聞こえるフリーの合成音声が平板な調子で範囲を読み上げ始めた。広告収入を賭けた競争を知らない未調整のそれでは、内容はちっとも頭に入って来ない。聞き取りを諦めて個人的な考え事に集中することにした。
つまり、問題の整理だ。
まずかねてからの問題。先月末のハロパの日以来、あたしは姫子のグループに迷惑をかけてしまって、助け舟も断ってしまったので順当に追い出された。それとは別に、西降さんと仲良くなるための計画を始めた。計画は第一段階の「お昼を一緒に食べよう」が現在も進行中。ただこれは、お昼に誘うより先に友達登録してたことを完全に忘れていた件を弁明しなくちゃいけない……。
で、ここに今日突然加わってきた問題。むにこの接触。まず今朝は西降さんになにか話をして、その後にあたしのところに来た。あたしはその誘いに乗ってむにこ派閥とお昼を共にして、結果姫子たちがあたしをいじめようとしているらしいとわかった。そしてむにこはクラスの治安を守るためあたしの保護を申し出た。そしてそれとは別に期末テストの範囲発表で、いよいよテスト勉強を始めないとヤバイことが明らかになった……。
まあ、勉強は……ちょっと脇に置いとくとして……。
むにこがあたしを守ると言い出したこと、そういう目的で近づいてきたこと。
これは、いつもみたいに流されちゃうとまずい、絶対にまずい、気がする……。
なんとかしなくちゃいけない、けどあたしにそれができる?それにまだむにこやむにこ派のみんながどんな子か知らないし、仮にそうだったとしても姫子たちよりは……いや……うーん…………
「それじゃあオカミン。コミュニケーション英語のテスト範囲は何ページから何ページかな?」
「えっ?あ、はい!えと、えーっと…………」
やばい全然聞いてなかった。いつの間に読み上げ終わってたの?えと、隣の席の人に目配せ……目も合わせてもらえない!ジュリ……ああだよねこっちを見てもいない。いやなに姫子派を頼ろうとしてんのあたし!自分の記憶を掘り起こせ!たしか前の範囲がごじゅう……いやろく、65?とかで終わってた気がするから66から……
「…………すみません、聞いてませんでした」
「うん、そうだろうとも。読ませてる先生すら聞いてなかったからな。でもお前は先生みたいになっちゃだめだぞ。まだ若いんだから」
ぽんぽんと優しく肩を叩かれた。周囲からはクスクスと嘲笑が上がる。油断した。弱い所を見せてしまった。ああ、何やってんだろ……。
「はいはい君たちも他人事じゃないよー。範囲は今週末まで変動する可能性があるから、教科担当の先生の説明をちゃんと聞いておこうなー。まあ最悪先生の話は聞き流したって構わないんだが……。
注意深い友達の話だけは絶対聞き流さないようにな。先生の個人的な意見だが、それは概ね、最後の生命線だからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます