03「こんな女で、ごめんね」
ガチャン。
玄関のドアがしまった音を聞いて、自然とため息が出る。
今日も疲れた。
ここ最近よく寝れてない。
久しぶりに姉貴と話した日から、昔の色々なことを思い出すことが多くなった。
ずっと無かったことにしてきた人生の恥部が、本当にあったんだとあの人に無理矢理突き付けられた。
最近はもう俺に興味をなくしたのかと思っていたが、何を考えているのかわからない。
靴を脱ぎ、自室に向かう。
玄関には姉貴の靴もあった。
鉢合わせたくないので、さっさと階段を上っていく。
正直、顔も見たくない。
嫌悪感があるのもそうだが、しかしハッキリ言えば、俺は姉貴が怖い。
傍から見れば、容姿や能力などの魅力に溢れているのに、思いやりがあって親しみやすい、まるで主人公のような美少女。
しかし、それは計算されつくした行動の結果だと、俺は知っている。
姉貴は人を扱うのが、本当に上手い。
例えば、姉貴が集団に溶け込むときとか。
まず姉貴は、相手に優れた容姿と自分の能力なんかをさり気なく見せつけ、格付けを行う。
それが済んだら、打って変わって親しみやすさと人当たりの良さを全面に押し出し、すっと人の懐に入り込んで見せる。
そうしてるうちに大体、初めから好感度マックスの人間が周囲に溢れて、姉貴を中心とした人間関係の流れが形成されていく。
気付けば欲しいポジションを手に入れているし、目を付けられたやつは自然に排除されて追いやられる。
周囲に違和感を持たれることなく、自然に全てがあの人に都合良く回っていく。
しかも、コレを当たり前と言わんばかりに、息を吐くように行っているのだから末恐ろしい。
計算づくの行動と氷のような内面を兼ね備えた、怪物。
それが姉貴の正体だ。
その恐ろしさは、今でも俺の頭と身体に染み付いて………、
いや、もうよそう。
これ以上あの人のことを考えるのは。
これ以上考えても、昔の自分に引き戻されるだけだ。
俺はもう姉貴の人形じゃない。
俺は、変わったんだ。
これ以上、人生を狂わされたくない。
それにあの人ももう、俺にこれっぽっちも興味なんてないハズだ。
あれ以来話しかけて来ることもなかったし、きっとあの日は何かの気まぐれだったんだろう。
これからも今までどおり、関わらなければいい。
それだけだ。
「おかえり~、遅かったね」
その声を聞いた瞬間。
ゾッ……と、一瞬で背筋が冷える。
ドアノブを回した先には、姉貴がいた。
◆◆◆
俺のベッドに腰掛ける姉貴を見上げる。
俺より早く帰ってきたせいか、部屋着姿だ。
オーバーサイズのTシャツに柔らかい生地のショートパンツを履いている。
ちょうど俺の目の前にあるのは、若い女性特有の、張りのある艶めかしい太もも。
身長が低い俺とは違い、遺伝子の優秀さを見せつけるような長く伸びたバランスの良い姉貴の素脚。
思春期の男として、女性の魅力に視線を向けてしまわないよう、俺は必死だった。
「リョウタ、最近彼女出来たんだってね」
………なんでそんなこと聞くんだ?
予想外の話題に、思わずギョッとしたような、気の抜けたような不思議な心地になる。
「………そんなこと、姉貴にはもう関係ないでしょ」
この人はもう、俺に彼女ができようがどうなろうが一切興味なんてないはずだ。
だって、散々使い潰していた俺をある日突然放り出したのはあなたなんだから。
何だろう。
世間話のつもりだろうか?
「おめでとう」
にっこり。
姉貴はその顔に、美少女然とした可憐な笑みを浮かべる。
まるで本心で祝福するかのような、純真無垢な笑顔。
そして、相変わらず恐ろしいほど顔がいい。
並の芸能人でも敵わないような、思わず誰もが見惚れるような表情。
ジワジワと、生物としての本能が惹かれていくのが分かるって、あわてて目をそらす。
あんなに都合よく利用されてきた筈なのに、こうも簡単に魅了される自分自身の生物の部分に、そこはかとない嫌悪感を感じる。
イヤだ。
気持ち悪い。
「……」
姉貴の方を見たくなくて、自分の足下に目をそらす。
そろそろ足が痺れてきた。
固いフローリングに座布団も敷かず正座しているせいで、足が痛い。
だが、こうなっているのは俺のせいもあるので仕方がない。
本来最も落ち着ける空間であるはずの自分の部屋。
そこに、俺が最も警戒する相手である姉貴が、勝手に上がり込んでいた。
それを認識した俺は、まるで防衛本能が働いたように、一瞬で頭に血が昇ってパニックになって。
頭が真っ白になって、何してんだとか、出てけよとか、とにかく怒鳴りつけながら力ずくでどかそうとした。
しかし、俺の力ではバレー部エースである姉貴の身体は、ちょっと押したくらいじゃビクともせず、手を掴んで強引に引きずり出そうとした次の瞬間。
スパンッと、左頬に鋭い痛みが走った。
少し遅れて、姉貴の振り抜かれた手を見て、ビンタされたんだと気づいく。
サーッと一瞬で血の気が引き、俺は冷静になった。
まだ耳から口元にかけて、手が当たった部分がジンジンと熱い。
この人が勝手に部屋に入ったのを納得した訳ではないけど、流石にいきなり力に訴えようとしたのは………、悪かった、と思う。
姉貴は冷静になった俺を見て「話がしたいだけだから落ち着いてほしい」と言った。
いきなり手を上げたことを反省しているのなら、正座して、落ち着いて私の話を聞いてほしい、と。
正直、俺の部屋なのになんで正座しなきゃいけないんだ、とは思った。
しかし、幼い頃姉貴によく正座させられていたし、何だか昔みたいで懐かしい気がして。
先程のショックもあってか、気付けば俺は素直に正座の姿勢を取っていた。
少し屈辱的な気もするが、先に手を出したのは俺が悪かったし、この人の神経を無闇に逆撫でするのは、こわい。
とにかく、早くこの部屋を出て行ってほしかった。
「……そんなに怖い顔しないで欲しいなー」
無言で床を眺めていた俺に、姉貴が茶化すような、場を和ませるような声をかける。
別に意識して表情を硬くしている訳では無いが、この状況にこの人相手でそれは難しい。
「………」
俺は相変わらず無言を貫く。
何も言いたくないし、この人に何を言ったらいいか分からない。
「…………あのね?」
そんな俺の表情をうかがってか、姉貴は少し言葉を続けるのをためらうかのような、迷った表情を浮かべる。
しばらくして、彼女が口を開く。
「私は、リョウタと仲直りしたいだけなんだよ?」
……………仲直り?
この相手は、仲直りって言ったのか、いま。
ふざけるなよ。
なんで今更?
今更、もう遅いに決まってる。そもそもお前なんか大嫌いだ。だってそっちの方から俺から離れてった筈で。そもそも、俺はあの時離れたくないって言ったのに。俺はあなたのために全部あげるって言ったのに、お前はそれを全部捨てて台無しにして。俺をさんざん利用して孤立させておいて、それが分かってても俺は嫌だって言っていや言わされてたんだ。人の人生をこれだけ台無しにして、抜け出すのに立ち直るのにどれだけかかったと思ってるんだ。お前のせいで、この女のせいでそもそもお前がいなければ、お前さえいなければ俺は普通に生きられたのに。今でも俺は普通じゃなくて普通になれなくて、毎日死ぬほど辛い思いや惨めな思いをしてて、毎日汚れた身体で歩いているのが恥ずかしい。
眼が熱くなる。
ジワーッと、視界が歪んで行く。
乗り越えようと必死に努力して、やっと少しずつ忘れられてきてたんだ。でもあの日のこと、言ったことも言われたことも全部全部本当はぜんぜん忘れられなくて。何度も何度も思い出したりしてそのせいで寝られなくて、それなのにお前は、苦しんでいるこっちの気も知らないで全部忘れて勝手に進んでって。
「あのね、リョウタ」
何もかも全て持ってるくせに俺から全てを奪った。俺より整ってて何もかも俺より強くて、それなのにお前は俺を自分の人生から追い出していつも自分だけ楽しそうに笑っててずっと悔しかった。一緒に笑ったのも掛けてくれた言葉も約束した事も全部嘘で、お前は自分の欲望の為だけに俺を利用して騙してた。俺なんて虫けらとか落ちてる石ころやゴミみたいに見えてない気付いてないもののように見てこっちに興味なんて一つもないくせに、なんで今更そんな。
「急に突き放すようなことして、……………今までずっと、一人にしてごめんね」
顔中が熱くなって、身体が震えていた。
ポロポロと腕に涙がこぼれ落ちる。
「……っ゛、……っ…ぁ…………!!」
ダメだ。
こんな奴の前で、絶対に泣いてるとこなんて見られちゃダメなのに。
「ずっと辛かったよねっ……!!………私もっ、辛かった…」
直ぐ側に温もりを感じる。
気付けば姉貴は、俺に寄り添うようにすぐ近くに座り込んでいた。
「まだ、っ……!リョウタは、私とした約束忘れてないかな、っ」
姉貴の声は、かすかに震えていた。
あの約束のことか。
そんなの、忘れる訳がない。
でもそれはあなたから破って。
でももしかしたら、俺と同じで、もしかしたら。
「………リョウタっ゛…!!!」
ぎゅーっと、とても強く、抱きしめられる。
温かくて、少し汗っかきなあの日と変わらない体温。
ダメだダメだ、騙されるな。
信じちゃダメだ。
ダメなのに。
成長しても変わらず、俺より少し大きめの背中をぎゅっと、抱きしめ返した。
「……………!!」
姉貴が、より強く俺を抱きしめる
俺は自分を、止められない。
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ふたなり巨乳高スペック姉に洗脳されてた俺が、もう一度都合のいいオナホに戻るまで ぷるりん@ぷるりん @pururinakapururin
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