01「ひとりにしないで」





「リョウタ、ただいまー」


バタンと扉を無作法に開けて、その女はドスドスと俺の部屋に入りこむ。



「ちょっ、何勝手に部屋入って来てんの!?」


普段ではありえない光景に、ギョッとする。

昔はよく互いの部屋に出入りしていたものだが、それは小学生くらいまでの話だ。


普段なら姉貴が俺の部屋に入るなんてありえない。

もちろん、逆も。



「いいじゃん家族なんだしー、久々に2人でゲームでもする?」


ともかく、この人が俺のパーソナルスペースに居るのは気分が悪い。

姉貴は、最低の人間だ。



「…いや、マジで出ていってくんね」


認めたくないが、姉貴はかなりモテる。


バレー部のエースにして、成績も優秀。

俺みたいな陰キャとはちがって、男女共に友人が多くて学年問わずかなり人気が高い。



「あ、ゲームだとだいたい私の方が強いもんねー」


気を抜いたら、俺でも見惚れてしまいそうな顔の良さ。

遠目にも美人と分かる、すらっと伸びたモデル体型に、制服を下から押し上る無駄にデカい胸。


姉貴は俺のクラスを含め、学校全体で人気が高い。

悔しいがこの人は昔からよくモテる。



「……他のことしよっか?」


きっと姉貴は、俺みたいな平凡な人間のことは気にもとめず、これからも勝ち組らしい人生を送っていくんだろうな。

そう思っていた。


「………いや、だから、マジで出てけって!!」


これでもかと憎しみを込めて、姉貴のことを睨みつける。



「うわー、そういう感じ?」


姉貴が、距離を詰めてくる。


バレー部の姉貴は俺よりも身長が高い。

背が低い俺に対して、まるで自分のほうが全てで勝っていて、俺が敵うとこなんて一つもないと言わんばかりに見下ろしてくる。


まあ、こんな風に思ってしまうのは、流石に俺が劣等感拗らせ過ぎなのかもしれないけど。



「すごい喧嘩腰じゃん、リョウタさー私のことそんな目で見ていいの?」


姉貴が俺の目を睨み返してくる。

昔のことがフラッシュバックして、思わず目を反らす。



あ……、逃げられない。


バクバクと、心臓が脈打つ。

全身に嫌な緊張感が巡って、身体が硬直する。





「お姉ちゃんに対して、そんな態度していいって教えたっけ?……んー?教えたっけ?」


姉貴は、俺の体にそっと手を這わせる。

そのまま服の上から、ぎゅ~っと乳首をつねった。


「…っ、ほんとにっ、やめろって!」


捻り出した声は震えていた。

恐怖で体が震える。



俺を睨みつける姉貴の目を見て、近くで匂いを嗅いで、声を聴いて。

忘れようとしていた昔の記憶が、どんどん頭を染め上げる。


『お姉ちゃんっ……、今日もばかなリョウタをいっぱい教育してくださいっ♡』

『すみませんでした……、おとこにうまれて、ごめんなさい』

『ああ゛あぁぁっ♡♡イ゛くっ……♡ごめんな゛さいっ、イ゛くっ♡♡イくっ♡♡』


思い出したくない、頭の奥に染み付いた記憶。

何度も何度も忘れようと努力した思い出。



「これ好きだったもんねー、リョウタ」


姉貴は片手で俺の乳首を、くりくりと摘むように愛撫する。


「……ぃ゛っ、………!!」


何か言い返したかったが声が出ない。

俺は耐えることしか、できなかった。


『お姉ちゃん大好き♡』

『ごッ、ごめ゛んなさっ!!ちゃん゛とっ、言うこと聞けなくてごめ゛んなさい…っ!!』

『うん……、お姉ちゃんの弟でよかった』


やめろ。

最近は思い出さなくなってきてたのに。


もう昔の話だ。



今更こんなことして、この女は何を考えているんだ。

二つの大きな瞳が、俺を覗き込んでいた。


幼い頃から変わらない、本当に綺麗な顔立ち。

久しぶりに近くで見た姉貴の顔は、意外にも優しかった。



『………っ、お姉ちゃんっ今度から何でも、ぢゃ゛んと言う事聞くからぁ゛っ、……見捨でな゛いでぇ゛っ!!!』


姉貴は、ゆっくりと、優しく俺の頭を撫でる。


ツーっと、頬を涙がつたう。

やめろやめろやめろやめろやめろ。



頭を撫でる手はそのまま、姉貴はギューッと俺の乳首を強く抓りあげる。


「リョウタ……、イけ」





「………ぁっ、……っ゛っ♡♡♡」


下半身がガクガク震えて、甘くはじけた。


頭が真っ白になり、思わずその場に座り込む。

その後のことは、あまり覚えていない。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る