第3話 ポインセチア
この時期…やっぱり花屋には燃えるように赤いポインセチアがいっそう目を惹く。
やっぱり彼に贈るなら…この時期だしポインセチアかなあ
私はそっとポインセチアの鉢を手に取る。
彼はお花好きだしきっと大事に育ててくれる。
赤く葉っぱにそっくりな花弁を見つめながら会計へ。
持ち帰りやすいように袋に詰めてもらっていざ帰宅。
何気なく購入したポインセチアを眺めていると
気分が悪くなってきた。
まるで虫を眺めているような
“こわい”感覚にそっくり。
見れば見るほど
赤い花弁も黄色い花粉も葉っぱまでも
“こわく”なってきた。
家に帰ってから、袋から出すのも嫌。
家にでっかいゴキちゃんとかクモとかが出たときの感覚。
とりあえず玄関先に。あそこなら見えない。
…なんだったんだろ。
それから、なぜかお花が“こわく”なった。
たんぽぽとかさくらとかは大丈夫。
でも、アネモネとかチューリップはダメ。
一番ダメなのはひまわり。画像だけでも何故か鳥肌が止まらない。
共通点がなくて困る。というか彼のお部屋には植物いっぱい………。
あ、でも観葉植物は平気だ。ツタとかも平気。葉っぱは大丈夫なのかな?
いよいよクリスマスだ。俺は彼女に本当のことを話さなければならない。
もしかしたら今苦しんでいるかもしれないのに、助けてあげられない……悔しい。
俺の彼女は“花恐怖症”だ。
昔、俺の部屋に入ったときに彼女はきっと無意識だったと思う。“花”を避けていた。どうやら葉っぱは大丈夫らしく、観葉植物寄りに歩いているのが今でも鮮明に思い出させる。
…申し訳ないことをしたな。あのとき怖がっていなかったからきっと無意識なんだろうと。そしていずれ自分で気がつくんだろうと思うと胸が苦しい。大事な人を守ってあげられない苦しみが毎日を蝕む。
だから、部屋に置いていた花は全て観葉植物にした。
花でなくても俺は満足だし彼女が苦しむ顔を見たくない。
クリスマスの日にわざわざ遠く離れた俺の家まで来てくれると彼女は言った。
その日くらいは俺だけに気を向けてほしい。
花なんかに気を遣わないでほしい。
…俺に魅力がないのも原因だと思うが。
ピンポーン
「ありがとう。今開けるね」
「ありがと〜」
ついに来た…!
慣れない電車を乗り継いでひとりで俺に会いに来てくれたんだ。精一杯楽しんで貰わないと。
ドアを開ける。
彼女は迎えられ、部屋に入るや否や衝撃を受ける。
んだってお花が一輪もないんだもん。
危なく持っていたポインセチアを落としそうになった。
彼は彼女を迎え入れるや否や、衝撃を受ける。
花恐怖症なはずの彼女が花を持っているんだから。
おかげで中途半端に履いていたスリッパで転びそうになった。
『なんで??』
お互いの声が広くない部屋に響く。
挨拶でもない自然に出てきた言葉が交わる。
「え、なんでお花がひとつもないの?」
私はそう自然に彼に質問した。彼もまた私を見てポカンという言葉が頭上に出ている。
「なんで花を持ってるの」
俺はそう自然につぶやく。花恐怖症のはずの彼女が俺のために真っ赤な花をさげている。彼女も俺の部屋を見てぽかんとしている。
「えっと…」
言葉を失う俺に彼女は言う。
「お花いっぱいのお部屋が好きだったのに…」
「君は今その手に持っている花が怖くないのかい?」
「え?まあ、こわい…けど、プレゼントしたかったから……」
はあかわいい。そっか。がんばってくれたんだ、俺のために。
「ありがとう。早速飾っても良い?ちょうど鉢が余っているんだ。」
「うん!やってるとこ見せて!」
ネットで調べたらポインセチアって
聖夜
あなたの祝福を祈る
清純
色で意味は違うみたいだけど花言葉はこんな感じらしい。
でも、お花がこわいっていうことは私は無意識のうちにそうじゃないって思っちゃってるってこと?
確かに清純…ではないね。
あなたの祝福を祈る…彼が幸せならそれで良いけど?本当はそんなこと微塵も思ってないってこと?
いやいや。じゃあ私がここにいる意味は?
…彼に会いたいから来た
彼は本当はイヤだったかもしれないのに?
私が会いたいからって理由だけで無理言って会ってたとしたら?
本当はお仕事で忙しいかもしれないし、無理して早退してたかもしれないし。(今日平日だしね…?)
「大丈夫?」
鉢に土をざりざり詰める彼に優しく気遣われる。
やっぱりそんなわけないと否定。…したい
え、でももしそうだとしても私はありのままを受け入れられる?
「ひゃっ!」
土を詰めていたはずの彼は軍手を脱ぎ、私の背中にぎゅっと。
「また。それ悪いクセだよって言ってたじゃん…」
「ごめんね。せっかく会ってくれたのに…こんな感じにしちゃって」
「ん?俺も会いたかったし。どうせまた悪いクセで色々悩んでるんじゃないかなって思ってたし。」
「もうやめたいな、コレ。」
「んーん?無理に変わろうとしなくていいんだよ。俺だって難しいし。だから今みたいに俺が代わってあげられるならそうすればいい。」
「…ふふっ。なんかかっこいいね」
「んーそうかなあ?」
「無意識か〜イケメンだね」
今はこれでいい。
彼が私を信じてくれているから。
私も遠距離だったって彼を信じているから。
(まあ裏切ったらトラウマにさせるけどね…)
きっと今年はいいクリスマスになるかな!
そう思いながら、今度は私からぎゅーを仕掛ける。
うん。こんなあまのじゃくだけどゆるしてね?
花言葉物語 千世 護民 @Comin3
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