第13話 友達

「ねぇワイアット何か、あったの?」


 普段とは違う明るさを、機敏に感じ取ったエルシーが訊ねる。

 熟したリンゴを剥きつつ、ワイアットは優しく頷く。


「実は、友達と久しぶりに会えて」


 友達、と聞いた途端、エルシーは目を伏せた。

 ワイアットは話を続ける。


「銃の腕も、体術も、俺達軍人よりも長けてて、冷たいけど愛情深い……とにかく凄い人」


 語る言葉の端々に込められている温かさが、窮屈を強めた。


「私も……友達でしょ」

「マッケナ総帥のご親戚に、俺みたいなのが」

「私の友達よ!」


 震えながら強く言い切る。

 エルシー自身、思っていた以上の声が出てしまい、喉を押さえてせき込んだ。


「おじょぅ……あーと、エルシー大丈夫?」

「へ、平気。やっぱり軍人は、あの人を尊敬するのね」

「分裂してた国を統治した方だ。人食い狼の」

「ヴォルフよ、いとこに人食いなんて言ったら3時間以上の説教を受けるわよ」

「えぇ、そんなに?」

「いとこは調査隊員の話を毎日聞いて、ヴォルフの研究にまで踏み込んでる。はぁ、あの人もいとこも好きなことしてるのに、私は、ずぅーっとベッド暮らし……年の近い友達だっていない。だから、ワイアットだけは友達でいて」


 一口サイズにカットしたリンゴを差し出す。


「俺だって、友人は少ないから、エルシーの友達と言ってもらえて嬉しいよ。でも、護衛の任務が終われば都に戻らないといけない」


 任務に愕然とし、何も言えず横になる。


「エルシー、離れていても手紙でやり取りできるよ。友達なら、どこにいたって繋がってられる、きっとそうだから、リンゴを食べてゆっくり休んで、また明日」 


 優しい言葉を残して寝室から出たワイアット。

 守衛のように扉の外で立っている屈強な軍人が呼び止めた。


「おぅワイアット、ガールフレンドが来てるんだってな」

「えっ、彼女は、そんなんじゃない、あー友達」


 気まずそうに躓かせて返す。


「はは、照れるな照れるな、彼女明日には出てくんだろ。会えるうちに色々話しとけ。お互い、いつどうなるか分からないんだからな」

「あぁ、はは……まぁ、うん。うん……」


 困った笑い声を絞り出したあと、ワイアットは駆け足で屋敷を飛び出した――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る