第6話 新たな組織

 街道にて、1人と1匹が歩く。

 前方に馬車が止まっていた。

 背広を着た男が2人、ど真ん中で何かを見下ろす。


『何してるのかな』

「さぁ、邪魔しちゃ悪いから行こう」


 興味を示す狼と、無関心な赤ずきん。

 馬車を避けて通り過ぎる途中、ちらりと琥珀は覗く。

 両腕を拘束された青年が、地面に伏せていた。

 筋肉質で背が高く、軍服を着ている。


『あれ、イーサン、イーサンだよっ』

「他人の空似じゃないかな」


 一切興味を示さず、無関心に通り過ぎようとした。


「あっ、赤ずきん! それにチビスケ! 助けてくれ、俺だよ、イーサン! 助けてくれっアーサーが、アーサーが!」

「黙れ!」


 ブーツで横っ腹を蹴られ、呻いて空を仰ぐ姿勢となる。


『暴力はよくないよ!』

「やれやれ」


 数歩進んでから立ち止まり、呆れながら数歩戻る。

 背広の男、ちょび髭をした人物はジロジロと睨む。


「狼を連れた女……十分に怪しすぎる、この犯罪者と仲間みたいだな」

『うんっ都でね、いろんなことを教えてくれた優しい人!』


 嘲笑とゆっくりと手を叩く音。


「はは、やぁ珍しい坊や、君は素直でいい子だねぇ。お嬢さん名前は?」

「赤ずきんです」

「本名を言え」

「さぁ、忘れてしまいました」

「ははは……お嬢さん、警察を舐めない方がいいぞ」

「警察?」


 赤ずきんは聞き慣れない名称に傾げる。


「あまり世俗に詳しくない旅人か……だが、ライフル銃を所持、許可証は」

「あります」

「軍の関係者か。とりあえず赤ずきん、我々はね警察という新しい組織を2年前に立ち上げた。俺はギャロン、相棒は」

「ワルフリードだ」


 渋い声で静かに名乗る。

 鋭い眼差しで赤ずきんを睨む。


「軍事政権から脱却し、警察がこの国を作りかえる。真の平和、犯罪者を武力ではなく法で裁き、罪を償わせるのさ」

「たいへん素晴らしい話だと思います。ですがこの国は人食い狼による被害が多いですし、駆除を優先した方がいいかと」


 ギャロンは、分かっている、と頷いた。


「軍の調査部隊を知っているか? ヴォルフの研究をしている組織」

「えぇ少しだけ」

「坊やのように人語を話す、ヴォルフがいるのさ、森の奥深くに、軍や警察とは違う、独自の法が絡む町がある。人と取引をして共存し、ヴォルフを増やしている、駆除対象だっていうのに何故か傲慢なマッケナは、動かない」

「総帥をつけろってんだクソ野郎!」


 横やりに対し、ワルフリードは黙って引き起こすと、馬車の荷台へと強引に押し込んだ。


「彼は何をしたんですか?」

「殺人だ、酔っぱらった挙句、ケンカして仲間を撃ち殺した。犯罪者同士でつぶし合うのは一向に構わん。牢屋にも地獄にもぶち込めるからな」

『ねぇねぇアーサーに何があったの?』

「被害者の名前だ、前頭葉に至近距離から拳銃で1発。死体ならまだ町で保管している。拝みたきゃこの先にある町に行け、だがあと数時間したら故郷に送り届けるからな。犯罪者とはいえ死者は丁重に扱うさ」


 荷台でバタバタと暴れる音が聞こえ、


「俺はやってねぇ!!」


 と叫んでいる。


「やってねぇ、と言っていますが」

「目撃者がいる、旋条痕が軍指定の拳銃と合致した。お嬢さん、それでもあいつの疑いを晴らしたいのか?」

『イーサンもアーサーも良い人だよ! 悪いことなんてしないもん』

「うーん狼クン、どうしたい?」

『助けなきゃっ! だって、都で一緒に暮らしたんだよ?』

「だそうで、疑いを晴らしたいですね」


 訝し気に睨んだギャロン。

 ワルフリードは静かに成り行きを見守り、喉奥で軽く唸る。


「だったら町まで来い、反論できる証拠を見つけてみろ」

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