第10話 独白(2)
これで上々だろう?
僕はジャーッと機械の挿入口から出た通帳を引き抜き、その数字に目を落とす。
新たに刻まれた数字に、フッと顔を綻ばせたが。あの時の様な笑みは零れなかった。
また痛烈な餓えに蝕まれてしまうからだろうか、普通へと擬態しなければならないからだろうか。
自分自身の事なのに、僕はきっぱりとどっちだと断定出来なかった。
僕は小さく息を吐き出してから、近くに居た銀行員に笑顔で声をかける。
「すみません、いくつかの支援団体に寄付金を送りたいのですが……あぁいえ、それぞれに。それと寄付する額がかなり多いので、どうしたら良いのかなと思いまして」
駅近の大画面、そこに映る女性ニュースキャスターが横からサッと渡された紙に目を落とすや否や、物々しく告げた。
『速報です。先日男女併せて四人を殺害後、自らの別荘に火を放って全焼させると言う悍ましい事件を引き起こし、警察へ出頭した与木丈一郎氏ですが。たった今、持病が悪化し亡くなったとの事です。繰り返します、先日……』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます